ビジネスモデルの要諦は社会イノベーション

 

時代を刻むクロックは高速化し、全ての要素の関係性は複雑になった

「激動の時代」という言葉が多用されるようになって何十年か経った。使い続けられるということは、多くの人がそう感じているからなのだろう。多分今後もステロタイプとして使われるだろう。これは時代を刻むクロックがどんどん高速化しているためではないだろうか。まず情報の量が爆発的に増えている。情報を発信する人間が増加し,その上情報の伝播速度が高速化している。何れもディジタル技術の影響する所である。かなり高度な知識、即ち学術論文でも情報の量は爆発的に増加している。例えば太陽電池に関する論文は1990年までは年間約100-200本(英文論文)発表されて来たが、その後急増して2000年以降は年間3000本を超すに至っている。ただ、これには副作用もある。この情報量は専門家でもフォローできない。と言うことは、専門家は守備範囲を狭める。結果として狭まった視野の2次情報しか一般に伝えられないため,俯瞰的な認識ではない。そのため時によってはエキセントリックな議論になる。環境や健康関係は、俯瞰的な認識の上に社会的な議論をする必要があるので気を付けたい。加えて、情報だけでなく、航空機路線や高速道路の発達は、人とモノの移動を高速化して、その人とモノが持つ大量の情報の交換速度を高速化した。新聞や雑誌、テレビで得る情報より、現地に行って見聞きする情報は海外旅行の経験で分かるように数万倍かもしれない。百聞は一見にしかず、であるそして、情報の増加と伝播の高速化は、社会、経済、文化全ての事象の関係性を高め結果として複雑性を高める。従来は時間を掛けて関係性を形成した事象が瞬時に関係性を持つようになり、時には激震を起こすようになった。古くはアジア危機があり、最近では、ギリシャの財政危機はヨーロッパ全域の金融危機になりユーロ安をもたらし、類似の財政赤字構造の日本国債の信用にも影響を与え始めた。今度のチュニジアの政変はアラブ全域を震撼させたが、この連鎖がどうなるのか気になる。


グローバル経済には歴史的なビックウェーブが押し寄せている

グローバル経済には人類史上かってないビッグウェーブが押し寄せている。1989年のベルリンの壁の崩壊がその始まりであった。この時から市場経済がそれまでの規模から何倍にもなる歴史的な変動が始まった。ベルリンの壁崩壊とは1989年11月9日に東ドイツ政府が東ドイツ市民に対して事実上の旅行自由を誤発表した事によって、ベルリンの壁が11月10日以後に東西ベルリン市民によって破壊された事件である。とにかくソ連圏と中国というそれまで隔離されていた市場が資本主義の市場に合流することになったのだ。その経済のビックウェーブは自動車の販売台数でみると実感出来よう。事件の20年後2009年には中国の自動車販売台数が世界一になった。中国の2010年の新車販売台数は1600万台。アメリカが1159万台、日本は495万台。中国は日本の3倍以上売れていることになる。ロシアの2010年の新車販売台数は191万台だった。旧共産圏の欧州の合計は、2010年150万台であった。加えてアジアのビッグウェーブも凄い。東南アジア主要6カ国の2010年の新車販売台数は249万台、ブラジルの2010年の新車販売台数は、351万台となり、ドイツを上回り、中国、米国、日本に次ぐ世界4位の自動車市場となった。インドは2010年に187万台である。即ち、かっての米国、欧州、日本という市場に加え、新たにこの20年で年間約2700万台の大市場が出現し、なお数年10-30%で成長して行くのだ。住宅、家電、そしてインフラなどを考えてみると恐ろしいほどの経済膨張である。今後二度とこんなビックウェーブは来ないだろう。


新たな南北格差が産業と企業の大変革を要求する

かって、豊かな先進国の北部と貧しい途上国の南部、という南北問題がグローバルな課題として真剣に議論されていた。その当時日本はG5のメンバーで北の代表であった。僅か10年足らずでG20の時代になり、市場、資源、成長という経済活動において、南部が主役になり、北部であった米国、欧州、日本は巨額の財政赤字を抱え、経済再建を新興国と呼ばれる、かっての南部に依存する状態になった。成長力という経済の新たな南北格差が出現した。当然これは企業に大変革を迫ることになった。すでに長期的な視野でこの状況に対する戦略的な経営資源のシフトを推進してきた企業と、変革出来ない理由を議論してきた企業では既にキャッチアップできないほどの格差を生んでしまった。新興国のこの10年の成長の波に乗り遅れたギャップを埋めるのは容易ではないが、今からでもやるしかない。


技術経営戦略はビジネスモデル間の競争になった

安い労働力を求め生産拠点として、輸出拠点して新興国を位置づけた過去のビジネスモデルは崩壊しつつある。また、モノの生産に固執するビジネスモデルも既に限界にきている。自動車、家電、航空機・・・、最先端の製品でなければ新興国で開発から生産まで自力で生産可能になった。一方、新興国では経済の急成長に生活基盤の整備は全く追い付いていない。一部の富裕層と呼ばれる利権を略取した階層以外の生活者の生活は、精神面を含めむしろ劣化している部分が多く、それが社会を不安定にし、時には暴動や政変の引き金にもなっている。自動車や液晶テレビの販売台数や、ショッピングセンターの賑わいそして不動産バブルのような報道を表層的に受け入れていると本質を見誤る。新興国で起こっているイノベーションは技術イノベーションでもなく、ビジネスイノベーションでもない。本質は社会イノベーションである。従って今後のビジネスモデルにはこの社会イノベーションを十分に組み入れなければならない。日本の90年までの成長と成功は、米国と欧州という先進国へのモノの供給に依った。先進国は日本以上に生活インフラの整備が進んでおり、社会構造も成熟して安定していた。その中に中流という、人口の多数を占める生活者が存在していた。日本はその社会に、品質に優れ、機能が高く相対的に安いモノを供給するだけでよかった。産油国を中心に工業化のインフラ即ち、製鉄プラント、化学プラント等を供給してきたが、社会イノベーションを供給して来たわけではない。かって日本が先進国内の製造業から奪った、先進国市場へのモノの供給という役割は今や中国、アジアに移ってしまった。成長する新興国の市場には、自動車や液晶テレビというモノばかりではなく、水や電力、あるいは空気、住宅そして教育や医療といった生活者が必要とする社会機能を供給する必要があり、かっての先進国市場へのアプローチとは全く異なる。生活水準を先進国並みに引き上げるという社会イノベーションを支援するビジネスモデルでなければならない。即ちこれからのビジネスモデルは社会イノベーションの組込みが要諦である。

 

2011年1月 開発工学学会誌巻頭言 

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