◆俯瞰MAIL第 99号◆2020年3月31日発行

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◆時候のご挨拶

桜の満開と雪、何十年ぶりの景色、しかし花見は自粛です。パンデミックの世界でも、山野は花が咲き青葉が出てくるでしょう。この自然がパンデミック状態になる前に気候対策を進めないと。

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●政治がもてあそぶ国民の生命

●欧米の没落

●巨額の金融緩和と財政出動の後はどうなるのか

●日本はコロナでどう変わる、どう変える

●俯瞰サロン:今月はお休み

●俯瞰のクッキング:今回はお休み

●サムライたちのイノベーション 

●俯瞰の書棚 “日本文化の核心 「ジャパン・スタイル」を読み解く”

●雑感・私感

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◆政治がもてあそぶ国民の生命◆

新型コロナウイルスについてはとんでもないことになりました。完全に世界が停止に追い込まれました。このコロナウイルスに関しては、現段階では実態がはっきりわからない状態ですから、この評価は後日、あるいは歴史として検証し、各国がそして世界全体が次のパンデミックに万全の態勢で臨める医療体制を構築する必要があります。

 

しかしこれまでの経緯を見ると、政治がその体制維持、あるいは再選を意識して明らかな誤りを起こしたと思います。

 

事の起こりの中国では、初期の段階で現場の医師からの警告を潰すという暴挙に出て、世界中にパンデミックを起こすことになりました。

 

トランプ大統領は中国の過ちを強く主張し、アメリカが被害者でありトランプ政権は責任がないという主張です。そして中国や、韓国、日本などの広がりを対岸の火事のように見て、5月には消えるとか、たいしたことないとか言って、好調なアメリカ経済への影響を必死で止め、 11月の再選をひたすら追求した結果、世界一のコロナの感染の中心となってしまいました。ニューヨーク州知事も現在頑張っていますが、明らかにアジアの状況を見て人種の坩堝であるニューヨークのリスクを認識せず、準備不足のまま大感染になってしまいました。

 

イギリスジョンソン首相は、“集団免疫”ということで国民の大半が感染すればコロナ危機は収まるという妄言を吐き、厳しい批判に晒されて方向転換しました。そして本人を含め、肝心のコロナ対策の司令塔の保健大臣までコロナウイルスに感染する始末です。

 

イタリアとスペインは、まさに地獄です。医療崩壊で患者はただ死んでいくだけです。葬儀を出すことさえままならないという、考えられない悲惨な状態です。フランスの状態もこれに近いです。ただ、流石ドイツは検査件数を大幅に増やし、全体像を把握した上で適切な医療を行っているようで、死者の数は少ないです。

 

日本は死者の数を見ている限り、ある程度抑えこんでいるように見えますが、あまりにも検査件数が少なく実態がわかりませんから、気を緩めないで今後も抑えこんでいく必要があります。しかし、初期の段階で手を打っておけば、台湾のような抑え込みが可能だったのでしょう。いずれにせよオリンピック延期が決まった後、急に患者数が増えていることについては、ある種の疑いを持たれかねませんが、死者の数だけは正確と思えば抑えこんでいると考えてもいいかもしれません。

 

中国は、武漢において強力な抑え込みを行った結果、抑え込みに成功したと、さかんに主張していますが、これまでに発表された死者の数に比べて、最近引き渡しが始まった遺体の数があまりにも乖離していると報じられ、必死でネットの情報を消し込んでいるようです。症状がなければ患者数に入れないという数字と合わせると、依然として世界最大の感染地域でしょうか。

 

以上、共通している事は、政治が自分の権力基盤を守るために国民の命をもてあそんでいると思わざるをえません。むろん彼らも経済活動の停滞と国民の安全というジレンマを抱えていますが、どちらを優先するかというと、事は明白です。また手遅れによって感染が広がり、さらに大きな経済的な損失を受けたと思います。

 

この最中、日本では森友学園、首相夫人の花見というようなしょうもない事象が、国会の論議の時間にかぶってきたのは残念です。森友学園、検事長の定年、桜を見る会の名簿、国会での偽証答弁というような事態がありますから、国民が安倍首相のリーダーシップの下に一致団結して動くという信頼関係はありません。国民は安倍政権を信じていないのでしょう。信じていない若い人は自粛など、どこ吹く風かというところがあって、カラオケ、ライフハウスなど結構繁盛しているのです。学生は春休みにヨーロッパ旅行にたくさん行っています。東大生も結構行っています。あの大阪でライブハウスが営業しています。

 

で、日本はどうするという事はこの後、議論したいと思います。

 

新型コロナウイルスを巡る海外の状況(28日現在) 

https://jp.reuters.com/article/coronavirus-overseas-idJPKBN21E3HH 

コロナ感染最多でも経済重視? トランプ大統領の迷走

https://www.asahi.com/articles/ASN3W5HDDN3TUHBI00G.html 

英政府、独自の新型コロナ「集団免疫」戦略を修正へ

https://www.technologyreview.jp/nl/the-uk-is-scrambling-to-correct-its-coronavirus-strategy/ 

武漢コロナ死者「遺骨数」が政府発表上回る謎

https://toyokeizai.net/articles/-/340664 

日本企業の米欧工場、半数が停止大手79社、中国8割「平常」 来年度計画6割が生産減(有料版)

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200330&ng=DGKKZO57384420Z20C20A3MM8000 

 

◆欧米の没落◆

下記のBloomberg のURLにある各国別のコロナウイルス患者数の推移のグラフは非常に興味深く、欧米とアジアの構造的な違いを感じさせます。

 

中国を除けば、1万人以上の感染者はアメリカをはじめイタリア、フランス、スペイン、ドイツです。いわゆる欧米の先進国です。

 

早期に感染が広がった韓国、日本、台湾、シンガポール、香港はかなり少ない数字です。シンガポールと香港は人口が少ないですが、韓国、日本の総人口から見ると欧米の数字があまりにも大きいのに驚かされます。

 

欧米諸国は、アジアの国々がコロナウイルス感染でテンヤワンヤしている時に対岸の火事のように受け止め、医療や保健衛生が万全な先進国の欧米諸国ではアジアのような状態にならないと、高を括っていたと思われます。だから、準備する時間という貴重な時間を失ってしまったのです。アメリカでは、アジア系人種を差別するというような有り様です。

 

欧米はこれだけの感染が広がった今、アジアよりも複雑な社会制度や経済構造で世界のリーダーシップ、覇権を掌握してきましたが、このパンデミックで致命的な経済的なダメージを受けることになるでしょう。これほど脆く欧米が崩れるとは驚きでした。

 

すなわち、欧米の凋落が始まると思います。確実に中国の勢いが相対的に強まると思います。むろん中国もいろいろな課題がコロナウイルスの影に隠れています。アフリカトンコロラの蔓延、不良債権処理などの問題は大きいのですが、欧米が、いわばオウンゴールで没落していく中で、相対的な優位は間違いありません。日系企業の調査の数字では、中国の工場再開率は8割です。そして欧米にある工場の稼働率は5割です(日経新聞3月30日夕刊)。このままでは、中国が世界の工場として再び世界経済を牽引することになるかもしれません。欧米の工場は当分動かせません。国境封鎖ですから。

 

この状況の中で日本はどうする、という議論がされても良いのですが、今の段階でさすがに議論されません。メディアはこの議論を始めてもいいのではないでしょうか。少なくともコロナウイルスの対策について、政府をあげつらうよりも有意義です。

 

NY州住民は不要不急の移動自粛を-伊で死者1万人

https://www.bloomberg.co.jp/NEWS/articles/2020-03-28/Q7XDU1DWX2PV01 

武漢コロナ死者「遺骨数」が政府発表上回る謎

https://toyokeizai.net/articles/-/340664 

 

◆巨額の金融緩和と財政出動の後はどうなるのか◆

私は経済は素人ですが、各国政府がこれまでにない巨額な財政出動することによって、経済活動の収縮を最小限に留めようとしていることに、この後の副作用が心配になってきました。もともと超低金利で、金融がリーマン以降経済を下支えしてきましたが、その後の利上げが実現できる前にこの惨事です。

 

リーマンショックの時、中国は50兆円にも及ぶ巨額の財政指標で経済的危機を乗り越えましたが、その時に市場に流れた巨額のマネーは、金融機関の不良債権として金融システムを今でも脅かしているようです。

 

日本はもともと巨額の借金がある上に、こうなったら赤字国債でもなんでも思いついたことは何でもやるという状態です。プライマリーバランスなど言う言葉を発すれば、今は国賊とみなされかねません。しかし世界中にあふれるマネーの受け皿は、いずれ必要です。

 

どこかでバブルを起こすか、ものすごいインフレーションを起こすか、どうなるのか私分かりませんが、考えざるをえません。

 

バブル状態だったアメリカの株式市場も、冷ややかに見れば本来の水準、すなわちトランプ政権のスタートのレベルに落ちきました。株式市場の今後は誰もわからない未知の世界でしょう。だから不安定な心情を反映して、大幅な乱高下を繰り返しています。未知の世界です。ですから、歴史的な大恐慌の再現という恐怖のシナリオも、メディアに出ます。アメリカの失業率も当時の30%になるという見方も出ています。もともと衰退しつつあるアメリカは、一段と衰退することになるでしょう。

 アメリカには、とりあえず米中貿易戦争の一時休戦、関税を元に戻す、を提案したいですね。

 

トランプ氏、2兆ドル規模の経済対策法案に署名 新型ウイルス

https://www.bbc.com/japanese/52074125 

コロナで「強制停止」の欧州 ついにドイツも財政出動

https://www.asahi.com/articles/ASN3S3FW2N3SULFA007.html 

リーマン時上回る緊急経済対策策定へ 現金給付も

https://www3.nhk.or.jp/NEWS/html/20200329/k10012355981000.html 

 

◆日本はコロナでどう変わる、どう変える◆

あれこれとコロナウイルスについて話してきましたが、ではこの後日本はどうなるという議論をしたいと思います。これは複数の人と是非議論したいテーマです。政府の政策が良いとか悪いとか議論しても仕方がないですから。ただ最近、テレビのコメンテーターが政府の擁護に少しシフトしている感じがします。コロナの女王もずいぶんとおとなしくなってきました。

 

まず日本はこれでどう変わるかを考えました。

在宅勤務という事は、情報システムの整備が必要です。在宅勤務をするためには、ペーパーレスが必須です。机の上の紙の山が情報源では、オフィスに行かないわけにはいきません。残業が多いのも、出先から自分の机に戻らないと仕事ができないからです。今回、在宅勤務が出来る企業は、情報のペーパーレスとそれを使うアプリケーションが整備されているわけです。ただ全員がネットワークを使うという想定のネットワーク環境であるか、問題は企業システムの通信帯域の問題です。これまで社内ネットワークで仕事をしていますから。日本中が在宅勤務になると、プロバイダーを含めたネットワークインフラの容量が必要になります。特にテレビ会議は通信帯域を必要とします。

 

会社のパソコンの持ち出し禁止という会社が多いですが、セキュリティシステムも整備する必要があるでしょう。会社の基幹システムがウェブだけで使えるようになっていれば、自宅のパソコンにデータを持つ必要がありません。管理も完全にできます。むろん穴はありますが。

 

それ以前に、社員、とりわけマネジメントのITスキルが問題なります。メールのやりとりだけではマネージャの仕事はできません。チャットやFaceTime やZoomなどが自由に使えないと仕事にならないでしょう。この機会にITスキルを身につけるしかありません。

 

 この在宅勤務には大きな課題があります。日本の住宅環境では家庭で仕事ができません。居場所がありません。ともかくも、独立したデスクワークができる環境が必要です。それを持っている人は少数です。独立した書斎を持つ事は男の夢です。ですから、企業にはサテライトオフィスの整備が求められます。機密保持のために企業独自のサテライトオフィスの方が良いですが、場合によってはシェアオフィスの契約が必要になります。ただし、今回は人との接触が問題ですから使えません。

 

結論として、まず日本全体のDX(Digital Transformation)が進むのではないでしょうか。これは日本企業のアキレス腱であった働き方改革と、管理部門の生産性向上につながるはずです。

 

 物流の高度化とECの拡大が進むでしょう。テイクアウトすなわちUber Eatsのようなビジネスモデルが広がるのではないでしょうか。ネットスーパーも普及することになると思います。むろん、店舗がなくなるわけではありませんが、ビジネスの割合が変わってきます。

 

宅配の最後は人海戦術ですから、 ITを活用しながらも個人事業主が担う部分が多くなると思います。個人事業主は雇用の機会を広げますが、安全とセーフティネットが用意されなければなりません。

 

人工知能で仕事がなくなるという議論が盛んですが、人工知能が流行っても無くならない仕事がはっきりするでしょう。宅配の人はもとより、介護や医療の現場の仕事は、人工知能で無くなるどころか、もっと必要でレベルが高い体制を要求されます。

 

 東日本大震災やタイの洪水で盛り上がっていたBCP(Business Continuity Plan)ですが、今回も対応できている企業は少ないようです。危機があると議論が盛り上がりますが、実際にサプライチェーンの再構成ができていなかったのでしょう。まさに「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という日本の伝統文化ですか。チャイナプラスワンで、ベトナムへの移転は大分進んだかもしれません。

 

ともかく安い、コストが低いというだけで、BCPも考えない調達を未だにしていると思います。以前関係していた製造業の企業で、「サプライチェーン診断」という私が考えた診断プログラムを実施しました。一つの部品のリードタイムが200日を超えていました。中国のサプライヤーです。極めて安い部品です。それでも日本で作るより安いと担当者は言いましたが、 200日のリードタイムというリスクを全く理解していません。

 

その企業のサプライチェーンのネットワーク分析をしました。 一次サプライヤー、 二次サプライヤー、 三次サプライヤーを同定してネットワーク分析しました。これは非常にコストかかる仕事です。しかしBCPの生命線、すなわち、自分が依存しているサプライヤーでは、一次サプライヤー以外はほとんど見えていません。これが見えていないとBCP戦略のサプライチェーンのデザインができません。日本の企業の大半ができないと思います。

 

 サプライチェーンの戦略的な再構成が進むと思います。これをしない企業は淘汰されるでしょう。

 

 まだまだあると思いますが、企業ではなく、公共が関わらなくてはいけない課題があります。

 

情報公開、オープンデータです。そして情報隠蔽は論外です。情報を公開すれば、官が指図しなくても民間が自分で動けます。何もしないのに情報公開しない、意図的に隠蔽する、これを機にまず是正すべき日本国の課題です。

 

この議論をある場所で議論しました。私は何を公開すべきか行政が仕分ける必要はない、特別な個人情報以外は全て公開すればいい、すべきだと主張しましたが、行政が選択して公開した方が良いと言う人が複数いて驚きました。

 

 今回、安倍政権の対応について気になる事は、いわゆる官邸主導という権力構造が対応策をブレさせている感じがします。トランプ政権はトランプ大統領本人がブレブレですから、ホワイトハウスのスタッフは無力です。確か、省庁縦割りで合理的な政策判断ができないという反省から、各省庁の権限を弱め、官邸のスタッフや総理大臣の側近に権限を集中しましたが、これが必ずしも良いとは思いません。特定の個人、総理に対する忖度が横行して、行政に乱れが出ています。この点は今後見直して、新しい意識決定機構を構築する必要があると思います。

 

 今回のコロナウイルス対応は長期化すると思いますが、落ち着いた時に徹底的に第三者的な評価を行い、今度こそ完成度の高い危機対応マニュアルを整備する必要があります。それに基づいて検疫システムや医療システムの再設計がされるべきです。ウイルス感染は今後も必ずでてきますが、今回のような国家的危機を招かないような日本にしていく必要があります。

 まだまだあると思いますが、最後にこれまでにないという大規模な財政出動は財政再建のメドさえついていない状態に行われます。マジックはありませんから、財政の健全化はきちっと議論していかないといけません。どこかの政党が、若者に対しして反乱を起こすような扇動した方がいいかもしれません。若者にとって未来そのものですから、彼らがこの議論を主導しないといけません。これは過激な意見ですが。

 

◆俯瞰サロン◆

 今月は中止することにいたします。

講師もお願いしておりましたが、時節柄、中止することといたしました。状況を観て再開いたします。

 

◆俯瞰のクッキング“”◆

 今回はお休みさせていただきます。

 

◆“サムライたちのイノベーション”◆

前回に引き続き「俯瞰の書棚」で紹介した本の一部を紹介しましょう。立ち読み気分で読んでください。

 

第三章 自分たちが欲しかったコンピュータを創った

  厚木で出会ったNEWSのキーメンバー

1985年4月、土井利忠がソニーの厚木の事業所にあるMCOA(マイクロコンピュータ・オフィスオートメーション)事業部に着任し、扉を開けるとそこには昼間にも関わらず暗い空間が広がっていた。MCOA事業部はソニーにとって非主流の事業であり採算が取れず、苦しい時代を迎えていた。そのため少しでも経費を節減しようと、昼休みの時間はサッカーフィールド並みの大きさのオフィスの電気を消していた。また、所属していた多くの社員は次世代を担う若者であったが、事業による収益がなく新たな製品の開発に着手できていなかった。

・・・中略・・・

 

  自由な環境での自由すぎる開発がスタート

「32ビットCPUを使った次世代のワークステーションを作りたい。だが、今いる厚木では難しいな」

  土井はMCOA事業部に着任する前からアメリカで開発された32ビットCPUに関する情報を得て、その技術の可能性に注目していた。そして当時苦戦を強いられていたMCOA事業部で手がけていた製品の機能を集約した、32ビットCPU搭載UNIXワークステーションを開発しようと構想した。しかし、そのプロジェクトの新規性が故に、厚木ではプロジェクトを立ち上げることができないと悟っていた。

・・・中略・・・

 

  そこで土井は1985年の夏、厚木で出会った堀、田中、手塚、林の4名を引き連れ、当時五反田にあった本社の開発研究所で開発チームを立ち上げた。当時の開発研究所は他のソニー社員からも「ないものを生み出す場所」と認識されており、新しいことに果敢にチャレンジできる場所だった。開発研究所の所長は、ソニー創業当時からソニーにいた木原信敏で、ソニー創業当時から続く自由闊達な雰囲気に溢れる研究所を作り上げていた。新しい技術を用いた新規プロジェクトを立ち上げるには絶好の環境であった。

  チーム立ち上げ当初のメンバーは、厚木から飛び出した四人に開発研究所の7人を加えた11名で、それぞれ違う経験とバックグラウンドを持っていた。その中でも土井と共に厚木から来たメンバーは開発に置いて中心的な役割を担っていた。田中と堀はハードウェア開発、手塚と林はソフトウェア開発を担当していた。

 

  メンバーを揃えた後、11名のエンジニア集団を前に、土井はプロジェクトについてこう説明した。

「お前らが作りたいものを作れ。32ビットCPUを使っていれば何でもいい」

もちろん土井にはそれ以上の思惑があったが、エンジニアをやる気にさせる術を長年の経験を経て熟知していた。

・・・中略・・・

 

事業部との交渉決裂、社内ベンチャーとしての始まり

  メンバーを集め、開発を始めることができたプロジェクトチームであったが、チームとしての試練は目前に迫っていた。チーム立ち上げ直後、土井はチームの人材不足を解消すべく、当時社長であった大賀典雄と厚木の事業部長が同席する場で交渉に挑んだ。交渉の場はソニーの国際会議場である。一般の社員には知らされていない、極秘の会議が行われる場所だった。

  交渉が始まる前から会議室の空気は緊張で張り詰めていた。土井はプロジェクトの趣旨を説明し、事業部から必要な人材を招集したいと説明した。だが、なかなか事業部長は首を縦に振らない。業を煮やし、土井と交渉に同席していた田中浩一も

「赤字続きの事業部に優秀な人材を残しておくのは勿体無いです。事業部の人をうちのチームに回してください」

と畳み掛けた。当時若手社員であった田中にここまで言われてしまうと、さすがに事業部長も黙っていない。

「今ウチは、その赤字事業を立て直すために尽力している。うちの人材は一人たりとも渡すことができない。大体、私はそんなことやらせるために君たちを開発研究所に出したのではない。今、事業部で手がけている製品の後継機を開発することを期待していたのに、なぜうちのビジネスに関係のないことをやり始めるのだ」温厚な性格な持ち主として知られていた事業部長だったが、顔を真っ赤にして激怒した。

・・・中略・・・

 

  正式な組織立ち上げより先に試作機が完成

  開発開始直後より、NEWSのエンジニアは32ビットCPUで動くUNIXワークステーションの実現を目指していた。したがって、ハードウェアとソフトウェアを32ビットCPUに最適なものに仕上げる必要があった。

  堀と田中が中核的な役割を担っていたハードウェア部門は、32ビットCPUの処理速度の最大値を引き出せるように、メインプロセッサー、メモリ、I/Oプロセッサ、イーサネットの配置を一から設計し、それを一枚の基板上に集約させた。当時最先端と言われたSUNワークステーションでは複数のユニットを繋ぎ合わせて実現していた機能を、一枚の基板のみで実現したのだ。これを実現するために何度も試行錯誤を行い、基板上の回路の無駄を一切失くした。無駄を一切無くした基板を核に、NEWSの物理的大きさは机の上に乗るほどのものになった。

・・・中略・・・

 

「やっぱり見た目が美しくないと自分達が使いたいと思えるマシンにはならないよね」

  アップル社が発売したリサの洗練されたデザインを思い浮かべ、堀はメンバーに対しハードのデザインへの思い入れを語っていた。

  しかしNEWSの魅力は、もちろんデザインだけではない。スペック的にも当時のスーパー・ミニコンピュータ「VAX-11/780」の2倍の速さを実現していた。夢に見た「速くてイケてるワークステーション」を現実の形にしたのだ。

  NEWSの設計思想は現代のパーソナル・コンピュータの設計思想と近く、メインフレームを参考に作られた当時のワークステーションには採用されていなかった革新的な設計であった。そしてこのハードの設計にかかった時間はおよそ半年。驚異的なスピードだ。

   そして、そのハードウェアの性能を余すことなく発揮できるソフトウェアの開発を中心的に行ったのが中途入社の手塚であった。当時ソニーのソフトウェア開発力はあまり高くなく、一番開発経験があったのは、手塚のような入社間もない社員達であった。そのような状況下で開発を行った手塚の苦労は計り知れない。

・・・中略・・・

 

  しかし、Σプロジェクトを主導していた通産省は、この提携をよく思わなかった。SRAとソニーが手を組みエンジニアの夢のワークステーションを開発し、Σプロジェクトの目標スペックをはるかに上回るマシンを販売してしまうと、プロジェクトの存在意義が危ぶまれてしまうからだ。それを危惧し、通産省はソニーがNEWS販売の際、圧力をかけた。NEWSの販売カタログに「今はUNIX・OSを搭載していますが、将来的はΣOSを載せる予定です」と掲載されているのは通産省対策のためだと言われている。

・・・中略・・・

 

  データショー当日はNEWSの噂を聞きつけたエンジニアが全国から集まり、中には九州から東京まで仕事を休んでデータショーに駆けつけたエンジニアもいたそうだ。

「予算も協力も得られなかったから製品説明も全て自分たちで行なった」

手塚は笑いながらデータショーの苦労を振り返った。

・・・中略・・・

 

NEWS開発チームの苦労は報われ、データショーでの発表されたNEWSの話は瞬く間に日本中に広がり、日本中のエンジニアが歓喜に沸いた。

「何千万もお金をかけて複数人で共有していたコンピュータより性能がいいものが、もっと安く独り占めできるのだからこれは欲しいよね」

堀はNEWSを開発しながらこう確信していたそうだが、日本中のエンジニアも同じ思いをNEWSに対して抱いたようだ。

  NEWSは大学や企業の研究所に導入され、10億円の資金で製造した二百台はデータショー直後に即、完売。最終実績として80億円の売上、20億円の利益を出すことに成功した。

・・・中略・・・

 

時代の波間に姿を消したNEWS

  製品発表後、予想以上の成功を収めたNEWSであったが、すぐに販売台数は頭打ちになりビジネス的には苦しい状態が続いた。NEWSの開発チームには、営業から製品のマルチメディア化など様々な開発要請が舞い込んで対応するも、努力は虚しく売上上昇にはあまり貢献しなかった。売上が伸びなかった要因はいくつかある。

・・・中略・・・

 

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◆俯瞰の書棚“日本文化の核心 「ジャパン・スタイル」を読み解く”◆ 

今回は「日本文化の核心 『ジャパン・スタイル』を読み解く」松岡正剛 講談社現代新書2020です。

 

松岡正剛氏は私が若いときから畏敬する泰斗です。編集工学研究所を立ち上げ「編集」という行為で現代を解き明かしてきました。私の主宰する俯瞰工学研究所は、関連するしかし雑多な情報を「編集」により構造化して、俯瞰的な認識をするという意図で命名しました。そして「考える」ということは「情報の収集・分析・編集」というプロセスであり、「知的腕力」とはこのプロセスを短時間に高い水準で実行する能力としました。

 

本書の内容について著者は、

“日本文化の真骨頂というか、日本文化の正体というか核心というか、ずばりディープな日本の特色がどこにあったのかについて、新しい切り口で解説してみようと試みたものです。”そして“お米のこと、柱の文化について、客神の意味、仮名の役割、神仏習合の秘密、間拍子と邦楽器、「すさび」や「粋」の感覚のこと、お祓いと支払いの関係、「まねび」と日本の教育、公家と武家の日本のガバナンスの在りか、二項同体思考やデュアルスタンダードの可能性などを採り上げ、それぞれを相互に関連させながら手短に解読してみました。”と冒頭で書いています。

 

圧倒的な知識にただ驚くと同時に、これまでの著作の高密度の圧縮ですので、ゆっくり読まないと消化が追いつかない感じです。

 

“空海の書、定家の和歌、道元の禅、世阿弥の能、長次郎の茶碗、芭蕉の俳諧、近松の人形浄瑠璃、応挙の絵、宣長の国学、鷗外の小説、劉生の少女像に何か感じるものがあるというなら、わかりやすくしようなどとは思わないことです。かれらが放った「間架結構」「有心」「朕兆未萌」「時分の花」「面影」「さび」「もどき」「 古意」「簡浄」「美体」などというコンセプトそのままに、日本文化を会得していくべきです。”

というスペクトラムの広さですから、私の視野の外の話が多いです。日本文化を理解するための必読書として、

“村田珠光 の『心の文』や九鬼周造の『「いき」の構造』や柳宗悦の『民芸とは何か』や岡潔の『春宵十話』はどうしても必読です。せめて山本兼一の『利休にたずねよ』や岩下尚史の『芸者論』や中村昇の『落語哲学』はちゃんと読んだほうがいい。”

とありますが、これらを読破していないと、本書を楽しむことはできませんね。私はいずれも読んでいませんので、読破に苦労しました。

 

 内容は下記です。

第一講 柱を立てる──古代日本の共同体の原点「柱の文化」

第二講 和漢の境をまたぐ──「中国語のリミックス」で日本文化が花開いた

第三講 イノリとミノリ──日本人にとって大切な「コメ信仰」

第四講 神と仏の習合──寛容なのか、無宗教なのか。「多神多仏」の不思議

第五講 和する/荒ぶる──アマテラスとスサノオに始まる「和」

第六講 漂泊と辺境──日本人はどうして「都落ち」に哀愁を感じる

第七講 型・間・拍子──間と「五七」調の型と拍子にひそむ

第八講 小さきもの──一寸法師からポケモンまで。

第九講 まねび/まなび──世阿弥が説く学びの本質。現在日本の教育に足りない

第十講 或るおおもと──公家・武家・家元。ブランドとしての「家」

第十一講 かぶいて候──いまの日本社会に足りない「バサラ」

第十二講 市と庭──「庭」「お金」「支払い」に込められた日本社会の意外

第十三講 ナリフリかまう──「粋」と「いなせ」に見るコードとモード

第十四講 ニュースとお笑い──「いいね」文化の摩滅。情報の編集力を再考

第十六講 面影を編集する──一途で多様な日本。「微妙で截然とした日本」

 

この章立てから日本文化論をイメージできますか。読んで少し日本文化の素養がついた気がしましたが、繰り返し読むか、原著に当たらないと深いところは理解できませんね。

 

内容は読んでいただくしかありませんが、私は神話の知識が乏しいので、神々の名前を読むことすら難しくて、関係を解説されても理解できないところが難しさを感じさせる本でした。

 

冒頭は“原始古代の日本に来た黒船はなんといっても「稲・鉄・漢字」です。”で始まり松岡正剛の語りに吸い込まれていきます。下記の話も興味深かったです。

“日本の神々は定位置にいる神でも常在する神でもなく、迎えられ、送られる神だったからなのです。”

 

次の能に関する解説は要を得ています。

“多くの能で橋掛かりに登場してくるシテの大半は神や死者や亡霊や行方不明な者たちばかりなのです。不幸を背負った者たちばかりなのです。その者たちの魂は浮かばれない。各地をさまよっている。そのような過去の境遇にいた者たちがシテに選ばれているのです。能は日本の古典芸能を代表するものですが、その舞台と中身は「漂泊の芸」をいかに美しく、いかにきわどくみせるかというものになっているのです。” 

 

 下記の下りも読ませます。

“日本にはおそらく三つほどのフィクション(虚構) があたかも現実のようにはたらいているにちがいなく、それが日本を「変な国」にさせているのだろうというものです。 一つ目は、日本は主権国家として最善のナショナル・インタレストの選択をしていると諸外国から思われている。二つ目、日本は自由資本主義経済を徹底していると主張しているけれど、どこかでごまかしている。三つ目、日本は世界中がまだ理解できていない名付けにくい体制。

 

最後にこう述べています。

“日本文化の正体はたいそう微妙で、たいそう複雑なのです。グローバル資本主義やコンプライアンスの蔓延が、これらの「一途で多様な日本」や「微妙で截然とした日本」をカラッケツにしてしまわないことを祈るばかりです。”

ご一読を強くおすすめします。

 

◆雑感・私感◆

以上も雑感・私感ですが出来る限り参照データを紹介しています。個人のブログは面白いですが個人的な偏りがありますから、できるだけメジャーなメディアを引用しています。以下は独り言として下さい。

 

世界中が未体験の世界に震えています。過剰な反応は無用ですが、見えていない部分が判断を妨げます。インド、パキスタン、インドネシアそしてアフリカです。一方経済は境界のない世界、グルーバル経済です。俯瞰的な正確な洞察ができればチャンスも見えるでしょう。

 

コロナウイルス危機は、人生でめったに体験できないことです。この起承転結を冷静に見極めることが必要です。かつて大学4年生の時の東大紛争は誰もが未経験の事件でした。起承転結ということを学びました。「起」ら「承」に移行したら、「転」をどうするかです。今回も「起」で打つべき機会は失われました。「承」対する最大限の対策を打つべきです。

 

 死者の数しかデータになりません。森友、花見・・・国民は安倍政権を信じていません。患者数は誰も信じていません。中国では公表された死亡者数と遺体の数が大幅に乖離しています。これで中国はまた国際世界で信頼を失いました。共産党政権の正当性という大義を毀損しました。

 

 あっという間にアメリカが世界最大の感染スポットになり、NYはイタリア状態に向かっています。欧米のアジアに対する傲慢な心理が欧米の凋落を引き起こしました。中国の一帯一路の展開に有利な状況になりますが、性急な行動でヨーロッパの国に不信感を生んでいるようです。

 

 TPPを主導した日本は、オーストラリア、ニュージーランドと連携してイギリスを取り込み、国際的な存在感を高められます。明治以来の日本のチャンスです。日本、そして日本企業は生まれ変わる、チャンスです。

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◆俯瞰MAIL99号(2020年3月31日)

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