◆俯瞰MAIL第 98号◆2020年2月29日発行

俯瞰メルマガ97.pdf
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俯瞰工学研究所の松島克守のメールマガジンです。俯瞰メール98号をお送りします。

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◆時候のご挨拶

時候のご挨拶どころではない状況になってきました。あと20日もすれば桜が咲きますが、オリンピックの可否という暗雲が立ち込めていますから、例年のように楽しい花見ができるか心配です。そもそも、みんなで集まってワイワイやる花見ができなくなる可能性が高いですね。

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●コロナウイルスで世界経済もパンデミックか

●ブレグジット以後の混乱が見えてきた

●ドイツの変調が気になる

●暴走するインドの成長が落ちてきた

●第74回俯瞰サロン:4月22日(水)

●俯瞰のクッキング“最近の食卓”

●サムライたちのイノベーション 

●俯瞰の書棚 “1兆ドルコーチ”

●雑感・私感

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◆コロナウイルスで世界経済もパンデミックか

 これについては現在進行形ですので、どうなるか全く予想がつきませんが、もともと米中の貿易摩擦で後退気味の世界経済は、確実にマイナス成長になるでしょう。アジアを中心に中国人観光客が消え、世界中の観光業は大打撃です。

 

巨大な中国経済の変調を受けて、世界経済の先行きの不安から証券市場が大暴落です。 NYダウは下げ続け、東京証券取引所も大きく下げています。アジアの各市場も下げていて、ドイツをはじめヨーロッパ市場も大きく下げています。どこまで、いつまで、誰も先が見えません。

 

識者がかねて、将来の経済の分断、すなわち中国経済とアメリカ経済のデカップリングを懸念していますが、このシミュレーションを否応なしに実体験する情勢になりました。ともかく、これについて現段階で議論しても仕方ありませんから、この辺で。

 

新型コロナウイルス感染拡大がもたらす株価暴落と世界封鎖

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/02/covid-19.php 

新型コロナウイルスの経済的影響からわれわれは何を学ぶべきか

https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0542.html 

 

◆ブレグジット以後の混乱が見えてきた◆

2月1日から、正式にイギリスがEUを離脱して移行期間に入りました。 EUとのFTAの交渉などが始まりますが、すでに離脱後のヨーロッパにいろいろな難問が見えてきました。何しろイギリスはドイツに次ぐEUの大国でしたから、 EUの予算に大きな穴が開きます。これをどうするか、すでに揉めています。 EUの枢軸であるフランス、ドイツの意見が分かれます。これまで通り農業分野に補助金を出したいフランスと、身の丈にあった予算に合わせるべきだというドイツです。いずれにせよ、フランスとドイツがEUを財政面で支えるしかありませんから、この溝は難問です。

 

一方、イギリスもEUの分担金がなくなりますが、 EUからの補助金もなくなります。FTAの交渉が不調であれば、イギリスからEUへの輸出は3兆5,000億ほど減少すると試算されています。イギリスはほとんどの関税を廃止する一方、EUの規制を受けないという、いわゆるカナダ型と言われるFTAを望んでいるようですが、EUは安易にそれを受け入れることもないでしょう。ジョンソン首相の交渉の切り札はイギリス近海の漁業権です。フランスをはじめとしたEU各国の漁業者は、これまでイギリスの経済水域で自由に操業できましたが、これができなくなると死活問題です。

 

大学も大きな影響を受けます。 EU内の大学生はこれまで自由に短期留学が許されていましたが、それができなくなります。 EUからイギリスのオックスフォード大学などに留学するには高い学費を払う必要が出てきます。一方イギリスの大学から見るとEUからの学生が大幅に減少します。 EUからの補助金もなくなります。そのためにオックスフォード大学はベルリンに拠点を設けて、人材と研究資金の確保を始めています。

 

 イギリスのEU離脱の大きな理由の一つである、移民制度も新たに制定されました。ポイント制の導入で英語が話せることが前提で、加えて技能やスキルのポイントの加算が必要です。単純労働者の流入を排除して高度人材だけを受け入れる制度です。しかし、建設業や介護などイギリス人がやりたくない仕事をやってくれた単純労働者がなくなると、関連業界は立ち行かなくなります。

 いいとこ取りのEU離脱は、ハードルが高いようです。

 

EU首脳、ブレグジット後の中期予算案合意できず、欧州議会なども予算案批判

https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/02/4eb27783167a9d80.html 

EUと英国、将来の関係は…3月2日から正式交渉開始

https://www.yomiuri.co.jp/world/20200226-OYT1T50185/ 

英国の対EU輸出、合意なき離脱で14%減 国連試算

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56056810W0A220C2000000/ 

英大学、離脱身構え

https://note.com/suzukan01/n/n9b10dbf0b82c 

EU離脱後の英移民制度、低技能者のビザ取得厳しく 高技能者の受け入れ上限廃止

https://www.bbc.com/japanese/51555272 

【解説】 ブレグジットで変わること、変わらないこと

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-51321201 

 

 

◆ドイツの変調が気になる◆

 ドイツは、社会と政治で変調をきたしています。極右のテロが2件続けておきました。極右勢力の台頭はかねがね問題視されてきましたが、一部が武装テロに過激化しつつあるようです。この背後には、ドイツ社会の大きな分断があると言われています。現在の生活に不満を持つ層は、この原因は移民から来ていると思い込んでいます。

 

この分断から政治の世界で極右政党が力を持つようになり、旧東独テューリンゲン州では与党がその力を借りて首相を選出したため大問題になり、首相は一日で辞任することになりました。その与党は大きく国民の支持を失い、野党のSPDも支持率を下げ、緑の党が躍進し、そしてジワジワと極右政党が支持を伸ばしています。二大政党政治が崩壊し、不安定な政治構造となっています。

 

辞任を表明しているメルケル首相の後継選びも混乱しています。メルケル体制のような安定な政権がドイツ経済の成長を支え、EUをリードしてきましたが、その体制が揺らいでいます。

 

 このところ弱含みだったユーロ圏の経済でしたが、中国経済の縮小に伴う世界経済の体調の影響に加えて、コロナウイルスによる中国経済の落ち込み、それに伴うアジアを中心とした経済の停滞の大きな影響を、ドイツ経済は受けることになりました。

 

 それでなくてもイギリスのEU離脱で、EU経済の立て直しが喫緊の課題であるとき、その中心にあるドイツ経済が揺れると、EU全体の経済が不安定なり、強いては世界経済に大きなインパクトを与える懸念があります。経済ばかりでなく、地政学的にヨーロッパに圧力をかけてきたロシアに対して、対抗する力が弱まります。伝統的にヨーロッパの地政学的な地域であった中東は、今やEUにかわってロシアとトルコが主導権を握っています。

 

これに対してフランスのマクロン大統領は米国に依存しない欧州の安全保障を推進することを主張していますが、これにはドイツはあまり積極的でないようです。まだNATOに依存する姿勢ですが客観的に見るとEUは核保有国であるイギリスと安全保障についてはこれまで以上に連携を強める必要がありますが、それも強いドイツは前提条件です。

 

ただ理解できないのは経済的に弱いロシアが軍事的なプレゼンスを強めて、経済制裁を解除する方向に向かわないのが不思議です。プーチン大統領は何を追求しているのでしょうか。強いロシアという虚構を追っているでしょうか。ロシア国民もそろそろ我慢の限界に来るのではないでしょうか。憲法改正がどう出るのか、注視する必要があります。

 

車がカーニバルの観衆に突っ込む 15人負傷―ドイツ

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020022500013&g=int 

ドイツ移民銃撃事件――これまでの右翼テロと異なる3つの兆候

https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20200222-00164132/ 

2つの事件でドイツ政局が不気味になってきた

https://toyokeizai.net/articles/-/330096 

極右政党の支持受けたドイツ州首相が辞意、議会解散と選挙呼び掛け

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-02-06/Q5ADP9T0G1L201 

減速感強まる欧州経済と止まらないユーロ売り

https://toyokeizai.net/articles/-/332165 

 

 

◆暴走するインドの成長が落ちてきた◆

 中国に続く世界経済の成長エンジンとして期待していましたが、総選挙後のモディ政権の暴走が、インド経済を成長路線から外してしまいました。

 

もともとインドにとって不安定要因だったカシミールから自治権を剥奪して政府直轄にして、住民のイスラム教徒を弾圧しています。インド国内のイスラム教徒の反感は大きいでしょう。重ねてイスラム教徒の移民を差別する「インド市民権改正法(CAA)」を施行して、ニューデリーを中心とした暴動に発展させています。この社会情勢では経済成長は無理ですから、経済成長は腰折れ状態です。

 

 政権が分断と反目を煽っている状態ですが、背景に経済政策の失敗で国民の不満が高まり、それから目をそらすためにヒンズー教徒中心の強権政治を推進しているのかもしれません。インドは、中国と同じように経済成長による環境汚染が深刻です。中国はかなり抑え込みましたが、インドは少し前の中国の状態です。数年前にインドに行きましたが、デリーの空気はひどいものでした。インフラ整備が進んでいないため、これも経済成長の足を引っ張っています。財政も逼迫していますから、インフラ整備が進みません。

 

経済政策も、失政の連続で悪化しています。経済政策と金融政策の混乱で銀行も苦境に陥っているようです。不動産のデベロッパーが数多く倒産しているとも言われています。期待されたインド経済は、当分世界経済の成長エンジンになりそうもありません。という事は、しばらくの間、世界経済は停滞することになるのでしょう。

 

1995年から十何回かインドを訪問し、劇的な成長と変化を見てきましたので、インドには特別なインテンションがあります。またインド投資を軸としているヘッジファンドにも関係していますから、インド経済を常に注視しています。

 

 

インドのカシミール「併合」は、民族浄化や核戦争にもつながりかねない暴挙

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/08/post-12720.php 

インドで暴動、18人死亡 不法移民への市民権付与めぐり

https://www.bbc.com/japanese/51639218 

大気汚染の都市別ランキング、上位30位中インドが21都市

https://www.cnn.co.jp/world/35149880.html 

度重なる失政の報い、インド経済が迷走 スタグフレーションに現実味も

https://www.sankeibiz.jp/macro/news/200128/mcb2001280700002-n1.htm 

インド経済の現状と今後の展望 ~鈍化する経済の行方と

https://www.murc.jp/report/economy/analysis/research/report_200213/ 

インド経済大失速 失望招いたモディ政権の景気対策

https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2020/02/post-92365.php 

 

 

◆第74回俯瞰サロン◆

新型コロナウイルス感染状況によって開催の可否を検討いたしますが、現在、下記の日程にて開催を計画しています。

詳細が決定し次第、ホームページおよびfacebookにてご案内申し上げます。

・日時:4月22日(水)18時30分~

https://www.fukan.jp/俯瞰サロン/

 

 

◆俯瞰のクッキング“最近の食卓”◆

 最近作っている料理をいくつか紹介しましょう。閃きというか、思いつきの料理ばかりです。

 

坦坦豆腐スープ

これは坦々麺の麺を豆腐に代えただけです。炭水化物を避けていますが、坦々麺の味が恋しくて、豆腐に代えてみたら結構これは美味しかったです。

ニンニクと生姜そしてネギのみじん切りを炒めて、ひき肉を入れてさらに炒めて豆板醤を入れます。さらに少し炒めて、水を一人当たり200 ccほど入れて顆粒の鶏ガラスープでスープを仕立てます。そして煮立てて豆腐を入れて出来上がりです。

豆腐は絹を使いました。私は豆腐の水切りは電子レンジで行います。その前にまな板の角を使って少し水切りをしてから、3センチ角ぐらいに切って電子レンジで2分ほど加熱します。そしてザルで水を切って鍋に入れます。仕上げに花椒をたっぷり振りかけます。

 

タラのトムヤムクン

時々トムヤムクンスープを作りますが、魚売り場に真鱈の切り身が売られています。タラは淡白でムニエルにしてもイマイチですので鍋料理になってしまいますが、あまり鍋料理はしません。料理ではありませんから。ふっとトムヤムクンスープのエビをタラに代えたらどうかと思いつきました。

タラの切り身の皮と骨を取り除き4等分くらいにします。後はトムヤムクンのレシピです。なぜか拙宅のベランダにはレモングラスの鉢があり、室内にコブミカンの木があります。プリッキーヌ(青唐辛子の一種)、カー(ショウガの一種)は生姜と赤唐辛子で代用します。袋茸はシメジで代用します。ライムはレモンで代用します。ナンプラーで塩味を整えてタラを入れてさっと煮て出来上がりです。辛みはタバスコで調整します。あればスープにバクチーを飾ります。

タラの代わりにホタテを使ったことがあります。

この派生で、ひき肉または切り落とし肉とキムチを炒めて、豆腐スープを作ります。ひき肉または切り落とし肉と高菜を炒めて豆腐スープを作ります。

 

ロールキャベツスープ

ロールキャベツは好きですが、キャベツの葉を1枚1枚剥がして肉のファルシを包むのは面倒なので、ほとんどやりませんが、どうせ食べるときはほぐして食べるのだからと開き直り、肉のファルシを炒めて水を入れ、鶏ガラスープの顆粒でスープを仕立てます。トマト味のスープで出されることが多いのでトマトジュース缶詰を入れました。拙宅ではカゴメの「つぶより野菜」を料理に使います。トマト以外にいろんな野菜が入っていますから、料理に向いています。塩胡椒で味を整えておいて、そこにザク切りのキャベツを入れて15分ほど煮ます。これをロールキャベツというかですが、味は同じです。

 

パブリカと牛切り落としの青椒肉絲風

おなじみの料理ですが、我が家では、ふるさと納税で牛肉の切り落としを取り寄せます。たくさん来ますから、200グラムぐらいに分けて冷凍しておきます。ただ冷凍のまま切り分けますので、解凍するといろんな形の肉になります。大きめの肉は、切り分けるとコマ切れ肉になります。細切り肉ではありません。

これとパプリカで青椒肉絲風の炒め物を作りました。今は温室モノでピーマンがあまり美味しくないので、最近店頭でよく見かける国産のパプリカを使いました。かつては韓国産が大部分でしたが、最近は国産のパプリカが出回っています。緑と赤のパプリカを使うと料理が華やかになります。そして肉厚ですから、美味しいです。

レシピは簡単です。私の料理では炒め物はみじん切りのニンニクと生姜を炒めて始めます。意識して毎日ニンニクと生姜とネギを取るようにしています。そして牛肉入れてさっと炒めます。そこに青椒肉絲の合わせ調味料を混ぜ合わせ、そこに細切りにしたパプリカを入れます。軽く火が通ったら出来上がりです。

青椒肉絲の合わせ調味料は、醤油大匙1,オイスターソース大匙0.5-1、胡椒です。

 

以上は思いつきと手抜き料理ですが、十分おいしかったです。

 

◆“サムライたちのイノベーション”◆

前回に引き続き「俯瞰の書棚」で紹介した本の一部を紹介しましょう。立ち読み気分で読んでください。

 

第六章 電子マネーに賭ける人生

世界初の電子マネーを創るプロジェクト

  2000年某日、宮沢和正はソニー本社の取締役会議にいた。この日の議題は非接触型ICカード「フェリカ」を用いた新プロジェクトについてであった。プロジェクト責任者の宮沢はソニー会長の出井伸之に、プロジェクトの一つである新たな電子マネーの名前を提案していた。

  宮沢にとっては緊張の瞬間であった。元々このプロジェクトは、出井に反対され一度は解散まで言い渡されたにも関わらず、宮沢を高く評価していた当時副社長兼CFOであった伊庭保に何とか守ってもらいながら、内緒でスタートしたものであったからだ。出井はこのプロジェクトをどう思っているのだろうか。宮沢は、何とも落ち着かない気分であった。また当時、非接触決済型の電子マネーは世界初となるサービスであったため、宮沢はそのネーミングに苦戦をしていた。

・・・・中略・・・・・

そんな中の今回の提案で、出井は「Edy」という名前に目を留めた。国際的な基軸通貨である「Euro(ユーロ)」「Dollar(ドル)」「Yen(円)」の三つの頭文字を取り、これらに次ぐ第四の通貨になって欲しいという願いを込めてつけられた名前であった。

「とてもいいじゃないか。これで行こう」

出井は穏やかに一言そういった。今回は何故だか快く承認してくれた気がするな。宮沢はふとそんなことを思ったが、名前がようやく決まった安心感もあり、あまり気にはしなかった。宮沢は既に、今後待ち受ける数々のタスクに向けて気持ちを切り替えていた。

しかし、後になって分かったことだが、実はこのとき出井は「Edy」という名前が「イデイ」とも読めることに愛着を覚えていたそうだ。一時は反対をしていた出井が、最終的に「Edy」のプレスリリースの場で出井会長が「絶対いける」と太鼓判を押すことまでしてくれたのは、洒落の効いた「Edy」という名称であったからなのかもしれない。

・・・・中略・・・・・

  ソニー銀行のプロモーションビデオに衝撃を受ける

  そんなある日に宮沢は、当時CFOの伊庭保と面談する機会があった。伊庭は宮沢に全幅の信頼を寄せており、宮沢もそんな伊庭を心から尊敬していた。帰国してからは様々な相談にも乗ってくれる恩人でもあった。少し落ち着いてから、話は宮沢のことになった。「最近の調子はどうだ?」

伊庭は宮沢を気遣って、現在の状況を聞いた。宮沢は最近の苦悩を伊庭に相談した。

「何だかモヤモヤした日々が続いています」

 

「ネット銀行を作る構想に、宮沢君も参画しないか」

伊庭はゆっくりとそう告げた。当事、ソニーはインターネットの成長を見越して、インターネットでも取引が可能な「ソニー銀行」というものを作ろうとしていた。ソニー銀行のサービスが、宮沢の着想と最も符号する、伊庭はそう考えたのだろう。しかし、宮沢は即座に答えは出せなかった。確かにインターネットという方向性は自身が思い描いていたものと一致していたが、エンジニアとして人生を歩んできたため金融事業に携わったことは無いし、今後もそれは変わらないだろうと思っていたからだ。

伊庭も宮沢の反応は十分承知していたようだった。

・・・・中略・・・・・

「見て欲しいものがある。確かに驚くのも分かるが、実際にそれを見たら気持ちも変わるかもしれない」

伊庭はそう言って、宮沢を実際にソニー銀行の準備室へ連れて行った。宮沢は、少し納得しきれていない気持ちもあったが、何らかのヒントなら得られるのではないかと考えてついていった。

  ソニー銀行の準備室では既に十数名のスタッフが働いており、活気が溢れていた。

「彼らとチームを組んだらいいものが出来るかもしれないな」

  宮沢はふとそんなことを考えたりもした。伊庭に案内されるがまま、オフィスの一室に入った。部屋の中央にある大きなディスプレイの前ではスタッフが待っていた。どうやらプロモーション映像を見るようであった。宮沢は暗くなった部屋に映し出される映像に目を凝らした。

  ・・・・中略・・・・・

「衝撃的、まるで魔法のようだった」

  当事のプロモーション映像について、宮沢はこう語ってくれた。フェリカというハードがあれば、人々の生活を驚くほど便利に出来るサービスを提供できるかもしれない。「電子マネー」というアイディアが宮沢の中で一気に纏め上がっていった。

・・・・中略・・・・・

  スイカ導入に立ちはだかる数々の壁

  携帯電話へのフェリカ搭載はドコモの技術部隊の抵抗によって見送られることとなったが、JR東日本はフェリカ搭載ICカード「スイカ」導入に前向きであった。ICカード読取り式の改札は、既存の磁気読取り式改札よりも管理費が飛躍的に低下し、更にキセルも防止することが可能になるためだ。しかし、欧米の既存技術という壁が立ちはだかり、スイカ導入には二年の歳月を要すこととなる。

  

  事は1999年初旬、フェリカの非接触ICカードの国際標準化に向けたISO審議が開始したところから始まる。当事は、非接触ICカードの国際標準規格はフィリップ社が開発した「タイプA」と、モトローラ社が開発した「タイプB」の二つであった。宮沢が所属するフェリカ事業部は、この規格三つ目となる国際標準規格を取ろうとした。それは、フェリカがこれらの国際標準技術より約二倍の通信速度を持ち、かつより広い通信半径であるという自負があったし、今後、世界に普及させていくためには国際標準化は避けては通れないと考えたためだ。そのため、ISOの審議が行われる欧州にも数多くの技術者を送り込みロビー活動を行うなど、抜かりない体制で国際標準の承認を間近に控えていた。

  しかし、承認直前で多数の国からの横やりが入った。フェリカを「タイプC」としての承認を目指していたソニーに対して、中国や韓国など様々な国が、自国は「タイプG」だ、「タイプH」だ、といった具合に次々と国際標準化の審議を申請してきたのだ。結果としてフェリカの審議も開始されず、ただただ延期されていった。

・・・・中略・・・・・

WTOを通じた欧米の横やりを跳ね返す

  ある日、JR東日本とフェリカ導入へ向けて調整を行なっていた宮沢の元に、思いもよらないニュースが飛び込んできた。何と、モトローラ社が国際貿易の調停機関であるWTOを通じてフェリカ導入に対する異議申し立てを行ったのだ。異議の内容は「政府機関の調達は国際標準技術を採用するべき」というものであった。JR東日本は民営化されたものの準政府機関である、というロジックに基づいていた。

「こういった形で妨害をされるのか」

欧米企業の抜かりなさに驚かざるを得なかった。国際標準さえ取れていれば。宮沢は審議拒否されたときのことを思い出して、つくづく悔やんだ。

 

そこから結論に達するまでは早かった。フェリカの強みである技術力で正面から戦うこととなった。日本の通勤ラッシュでは一分間に約六十人の人が改札を通過する。彼らが滞りなく改札を通り抜けるためにはフェリカの通信技術でなければならないのは自明であった。JR東日本を中心とした検証が始まった。JR東日本の社員数十人がフェリカを持って、実際に改札を通過する実験もした。

  ・・・・中略・・・・・

  フェリカ事業部とJR東日本は多数の検証結果をWTOに提出した。利用者の現状に応えるためにはフェリカでなければならない、ということを強調した。WTOが下した結論は「フェリカの性能に該当する国際標準なし」であった。こうした欧米企業との長い競争を経て2001年5月、ようやくJR東日本においてスイカの運用が始まった。

・・・・中略・・・・・

おサイフケータイにEdyが載るまでの格闘

また出井社長をはじめとするソニー上層部も、世界で初めての電子マネーサービスを開始するにあたって様々な問題を検討していた。宮沢の元には、取締役会議で上がった重要な問題が幾つか届けられていた。

・・・・中略・・・・・

  電子マネー普及期に立ちはだかる法律の壁

宮沢は、部長からもらったアイディアを基に電子マネーの用途に応じて二つの法律に分けることを金融審議会で提案した。金融庁の官僚や専門家も、納得の結論であった。

  こうして、2010年4月から電子マネーは、前払式支払手段といわれる、送金・換金が不可能なものと、資金移動と呼ばれる換金・送金が可能なものの二つに分けられた。サムライ宮沢は何とか電子マネーの未来を守ったのであった。

 

国際標準の壁を乗り越えて フェリカが世界に認められる

  こうした数々の壁を乗り越え、Edyを筆頭とする電子マネーは日本で普及していった。決済金額で言えば2009年に初めて一兆円を超え、翌年2010年には前年比45.8%増となる1兆6363億円となっていた。

・・・・中略・・・・・

フェリカの実績をアピールした。

  効果は各方面で抜群であった。まず、国際的な携帯電話の標準化団体であるGSMAが2017年4月以降に発売される携帯電話のフェリカの搭載を決定したのであった。また、アップル社はiPhone7で初めての日本モデルの発売を決定。その中にはフェリカが搭載されており、スイカが使えるようになったのである。

   宮沢は、この知らせを聞いた時、何か大きなものから解放された気がした。

「二度世界からつまはじきにされたフェリカが世界に認められた瞬間であった。リベンジを果たすことが出来た」

  宮沢が15年以上もの間、様々な壁を乗り越え続けた、ついにフェリカはiPhoneに搭載され、世界に飛躍する道筋が作られることとなったのだ。

・・・・中略・・・・・

宮沢はこの後ソラミツというフィンテック企業で、カンボジア中央銀行のデジタル通貨発行というプロジェクトを先導し、ブロックチェーンの世界でリーダーシップをとっている。日本政府のデジタル貨幣の指導者でもある。

 

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◆俯瞰の書棚“1兆ドルコーチ”◆ 

今回は「1兆ドルコーチ――シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え」Pエリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル、櫻井 祐子 ダイヤモンド社2019です。

著者のPエリック・シュミットは元GoogleのCEOです。

 

この書籍は、アメリカンフットボールのコーチが、シリコンバレーのベンチャー企業であるアップルやグーグルで、体育会系のコーチングスキルで成功した物語です。1兆ドルというのはコーチした企業の時価総額です。

 

エッセンスは、「俺だ、俺だ」という個人主義競争社会のアメリカにあって、チームに貢献してチームで成果を出すという、まさにアメリカンフットボールのゲームそのものの原理です。いわゆるコンサルタントとは違うスタイルのコンサルティングかもしれません。コーチとは何かを下記のように説明しています。

 

“コーチングは、個人のキャリアにとってもチーム全体にとっても、メンタリング以上に重要かもしれないと、私は考えるようになった。ためになる言葉をかけるのがメンターなら、袖をまくりあげて自分の手を汚すのがコーチだ。”

 

そしてコーチに最も求められる特質に、「聞く力」「理解する力」に次いで第3位に「励まし」を挙げています。

全体の要旨は下記です。

 

序文-シリコンバレー最大の伝説 なぜ誰もがビル・キャンベルの話をするのか? 

Chapter1シリコンバレーを築いた「コーチ」の教え。チームに「思いやり」を持ちこむ すばやく動く 「やっちまえ!」の行動原理 

Chapter2マネジャーは肩書きがつくる。リーダーは人がつくる 

Chapter3「信頼」の非凡な影響力 -「心理的安全性」が潜在能力を引き出す

Chapter4 チーム・ファースト -チームを最適化すれば問題は解決する

Chapter5パワー・オブ・ラブ -ビジネスに愛を持ち込め

Chapter6自分の成功を測る「ものさし」

 

意思決定で、コンセンサスを重視するスタイルに対しては大いに議論をし、しかしリーダーが決めろ、です。日本ではコンセンサスを重視すると言いながらもお互いの立場や意見の率直な議論をしないまま、そして決めないで先送りするスタイルは多く見られますが、アメリカでも決められない会議が結構あるようです。

 

“コンセンサスをめざすと「グループシンク(集団浅慮)」に 陥り、意思決定の質が低下しがちなことを、彼は直感的に理解して いた。 最適解を得るには、すべての意見とアイディアを 俎上 に載せ、グループ全体で話し合うのがいちばんだ。正直に問題を公開し、とりわけ不満が出ているような場合には、率直な意見を述べる機会を全員に与える。その問題や決定が特定の業務機能(マーケティングや財務など) に関わるものであれば、その分野に精通した人に議論をリードさせるし、複数の部門にまたがる幅広い決定なら、チームリーダを議論の「オーナー」にして責任を持たせる。”

 

そのためには全員が共有する目標と価値観すなわち「第一原理」を再確認して議論することが重要であるとしています。

“「第一原理」で人を導く その状況における「第一原理」、すなわち会社やプロダクトを 支えている不変の真理を明らかにし、その原理をもとに決定を下せ。” 

 

またリーダーとは何か、どうすればリーダーになれるのかについてチームの部下がリーダーにしてくれるという興味深い助言があります。

 

“君がすぐれたマネジャーなら、部下が君をリーダーにしてくれる。リーダーをつくるのは君じゃない、部下なのだ」と。”

“スティーブ・ジョブスはすぐれたマネジャーになってはじめて、すぐれたリーダーになれたんだ」”

“「最高のマネジャー」の条件は優れたコーチであること”“あらゆるマネジャーの最優先課題は、部下の幸せと成功だ。”

 

また優れた経営者の条件は下記であると言明しています。

 

“彼はとんでもなく優秀な経営者だった。その成功のカギとなったのが、まさにこの章で説明してきた原則だ。すなわち、オペレーショナル・エクセレンス(現場の業務遂行力の卓越性)、ピープル・ファースト、決断力、すぐれたコミュニケーション、最も厄介な人材から最大限の力を引き出す、優れたプロダクトへのこだわり、解雇する人を手厚く扱うという原則である.”

 

チームの重要性、チームとして結果を出す、チームを評価するという事はよく知られていますが、チームにおいて女性の存在が必須であるいう指摘は私もかねがね思っていたことです。

“優秀なチームはメンバーのIQを上回る”

“ 勝利できるかどうかは、最高のチームを持てるかどうかにかかっている。 そして最高のチームには、女性が多い。”

 

色々な助言が述べられていますが、最後に下記のアドバイスを紹介します。第二の人生を始める人たちにとって元気づけられて、積極的な人生を送ることができます。

 

“クリエイティブであれば50歳からが、人生で最もクリエイティブな時期だ。経験知と自由があり、それを自分の好きな分野で発揮できる。「後半9ホール」のような比喩は避けよ。そんなことを言っていると、与えられるはずのインパクトも与えられなくなる。“

 

なにしろ体育会系のコーチの助言ですから全てシンプルで分かりやすく、あれこれ私が講釈する必要ありません。小難しい理屈もありません。しかしマネジメントにとって貴重なアドバイスがたくさんあり、またシリコンバレーのマネジメントの実態を知ることができる貴重な書籍でもあります。ご一読をお勧めします。

 

◆雑感・私感◆

以上も雑感・私感ですが出来る限り参照データを紹介しています。個人のブログは面白いですが、個人的な偏りがありますからできるだけメジャーなメディアを引用しています。以下は独り言として下さい。

 

司法に手を出した安倍政権の専制化

十八史略が教える失敗の条件は「偽」「私」「放」「奢」の四つである、と言われていますが、安倍首相はこの4条件をクリアしたように見えます。しょうもないことをして文書を破棄して、説明もできない、しないで開き直るの連続ですから、そろそろ国民も見放すかもしれません。あまりにもひどかった自民党を国民が見限って政権交代が実現しましたが、その政権はもっとひどかったので、この状況で国民の選択肢はありません。なんとかしなくちゃいけませんね。

 

若手首長の意思決定は気持ちが良い

北海道の鈴木知事と千葉市の熊谷市長の意思決定は、首相官邸よりずっと明快で合理的です。地方自治体で考えろと、丸投げされると、鈴木知事はすっぱりと全小中高の休校を宣言して、それを見て安倍首相も追いかける展開です。そしていきなり全小中高の休校を要請しましたが、千葉市の熊谷市長は「小学校低学年を中心に学校で預かる」という働く女性を支援する決断をしています。緊急事態宣言のフォローで記者会見ですか。誰かに代わってもらったら。とにかく日本の政治家は老獪な人が多いです。そして目の前の社会が見えていない人が多いです。鈴木知事は都庁の職を辞して財政破綻した北海道の夕張市を再建し、その経験と実績で北海道知事を務めています。次は是非総理大臣をやっていただきたいと思います。人気の小泉進次郎と比べるとまさに月とスッポンです。

 

暴走するトランプ大統領

もともと暴走気味のトランプ大統領が弾劾裁判で無実を勝ち取ると、これまで以上に暴走と暴言が止まりません。なりふり構わず再選に向けて、すべてのエネルギーを使っているような感じです。本来、弾劾裁判が良かったかどうか疑問です。限りない疑惑と闇を持たせたまま大統領選挙に臨んだほうが、民主党にとって賢い選択だったような気がします。

 

元ニューヨーク市長のブルームバーグ氏に期待していますが、やはり過去をほじり出されて苦戦しています。彼が主張するようにトランプを倒せる候補は彼しかいないと思います。ともかく注視します。社会主義者の場にサンダース氏がこれほどの支持を集めるという事は、言われているアメリカの分断が極めて深刻であることを再認識させられます。ただブティジェッジ候補を除くと、あまりにも高齢で改革能力があるか心配です。

 

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◆俯瞰MAIL98号(2020年2月29日)

発行元:一般社団法人俯瞰工学研究所

発行人:松島克守

編集長:松島克守

配信人:石川公子

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