俯瞰メルマガ80号 2018年7月10日発行

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◆時候のご挨拶◆

あっという間に梅雨が終り、真夏です。今年の夏は特別長いので、暑さがこたえそうです。梅雨前線の暴れ方が半端ではないですね。幸い東日本は被害がほとんどありませんが、テレビでニュースを見ていると被災地の方々が本当にお気の毒です。ただ土砂崩れで住宅が被害に遭う映像を見ていると、本来そこには家を建ててはいけない造成があります。

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目次

●トランプ化するアメリカ

●ついに貿易戦争勃発

●ブレグジットと移民で揺ぐEU

●これからが正念場の北朝鮮

●第57回俯瞰サロン開催案内 

●俯瞰のクッキング“キャベツ解体処理”

●俯瞰の書棚 “予想どおりに不合理”

●知識の俯瞰 知的腕力を鍛える

●編集後記

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◆トランプ化するアメリカ◆

アメリカ最高裁のケネディ判事退任のニュースが大きく報道されました。中道保守派とされていても、彼が最後の良識の防衛ラインであったようです。ですから、後任にトランプ好みの最高裁判事が任命されることを恐れていたようです。やはり後任は、トランプ大統領の政策や思想に近い、保守派のカバーノ氏が指名されました。最高裁判事は基本的には終身制ですから、後任の最高裁判事の影響は長期にわたり、アメリカのトランプ化の固定につながります。

 

政治の方でも共和党のトランプ化が進んでいます。トランプ大統領に批判的な共和党候補は次々と落選しています。従って今度の中間選挙では、トランプよりの共和党の候補者が増えるでしょう。という事は、議会もトランプ化することになります。なにしろ40%の強固な支持基盤を維持しているトランプ大統領です。この支持基盤は、複雑な国際関係の話よりもアメリカファーストの、単純なトランプ節が好きなのでしょう。

 

アメリカのトランプ化、国際協調からの離脱、すなわちアメリカファーストは、米国自身が永年にわたって築き上げてきた国際社会の枠組みを大きく毀損しています。それは米国国民の財産の毀損でもあります。日本を含めて世界は、アメリカを目指してきました。

 

深刻な事態はヨーロッパとの亀裂です。先のG7ではアメリカは完全に孤立というよりG7から離脱とも言う状態です。

 

ドイツ政府が公表した写真は、映像として大きな衝撃を世界に与えました。あの1枚に現在のG7の関係が写しだされました。詰め寄るメルケル首相、腕組みして断固拒否のトランプ大統領、そして何も言えない顔の安倍首相です。

 

トランプ大統領がポケットからキャンディを出して、メルケル首相に投げたという報道すらあります。 西欧と米国の歴史的な国際関係の信頼は、完全に消滅したと思います。

 

加えてトランプ大統領は、ロシアを加えてG8という提案をして各国首脳を驚かせました。プーチン大統領にとってまさに漁夫の利です。 G7の弱体は、ロシアと中国にとってとても嬉しいことでしょう。民主主義の危機です。安全保障の危機です。

 

トランプ氏、米最高裁の構成変える機会 81歳判事引退で

http://www.bbc.com/japanese/44638584 

米最高裁、ケネディ判事退任へ 後任に保守色濃い判事指名か

https://www.cnn.co.jp/usa/35121597.html 

ケネディ判事退任、トランプ氏に最高裁変える好機

https://jp.wsj.com/articles/SB11781352683600293541404584312992272732138 

「トランプ党」化する米共和党、中間選挙では苦戦も

https://jp.reuters.com/article/us-gop-p-idJPKBN1JA0DM 

トランプ氏支持率、なぜ上昇?=醜聞・失態、影響せず

https://www.jiji.com/jc/article?k=2018040700409&g=use 

G7首脳会談の1枚  この写真には誰と誰が

http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-44429281 

トランプ氏、メルケル首相にキャンディー投げつける

https://this.kiji.is/382785150206329953 

 

◆ついに貿易戦争勃発◆

ついにアメリカと中国の貿易戦争が勃発しました。さらに拡大する様相も見せています。すでにEU諸国と貿易戦争していますが、アメリカと中国の貿易額は巨額ですから、世界経済に大きく影響するはずです。中国が報復関税をかける大豆は、すでに大幅な値下がりをしています。

 

隣国のカナダも報復関税を開始しています。加えてトランプ大統領の個人的な言動に反発して、一部では米国製品不買運動も起きているようです。

 

トランプ大統領がすでに口にしている自動車の20%の関税が発動されれば、EUの反発はかなりのものになるでしょう。日本もさすがにトランプ大統領に忖度しているわけにもいきません。米国内に生産拠点を持たないマツダなどにとっては、激震的事件です。ただ、世界中がこの貿易戦争の影響を測りかねています。という事は、投資は一時的に止まりますから、世界経済はかなりのマイナスの影響を受けるはずです。

 

とにかく世界の非常識ともいうべき貿易戦争に、トランプ大統領が突進しているのは言われるように中間選挙のために、先の選挙で支持してくれた白人労働者に対して、公約は必ず守るというメッセージでしょう。 そして一定程度の製造業の雇用回復は出ています。しかし、複雑な世界経済の関係性を考えれば、やがては労働者も負の連鎖が回ってくることに気が付くでしょう。

 

トランプ大統領の支持率は低くはなく40%近い強固な支持層を持っています。この階層は50年代のアメリカの繁栄を謳歌した社会的な階層であり、失われたその豊かさが戻るかもしれないという幻想でトランプ大統領を支持しているのでしょう。

 

この貿易戦争を強硬に進める背景には、中国のハイテク産業の急速な拡大にアメリカが脅威を感じていると言う面もあると思います。アメリカの圧倒的な技術力とハイテク産業は、世界に並ぶものがない軍事力の基盤です。ハイテク産業で中国がアメリカに迫る事は、すなわち軍事的な脅威です。知財について強硬な態度は、アメリカ発の知識と対米貿易の黒字の資金が、中国の急速な軍事力の高度化に直結していると見ているのではないでしょうか。

 

一方、知財といいますが、アメリカの有力大学では多数の中国人学生が先端技術を勉強しています。そして優秀な学生は中国に戻りハイテク産業の担い手となっています。深センに行きましたがその優遇ぶりは半端ではありません。学術的知識と言う「共有」は境界を作ることができません。

「中国製造2025」の成長政策にトランプ大統領は抗議していますが、他国の経済成長政策を非難しても的外れです。そして「中国製造2025」は実現されるでしょう。日本もこれについては、改めて戦略的な対応が必要です。中国は「まねる国」から「まねられる国」に変りつつあります。 ハイテク産業の分野では日本も中国の背中を見てキャッチアップする状態になるでしょう。とりわけ人工知能やロボット、半導体の分野はその可能性が高いです。

 

歴史を俯瞰すれば、急速に追い上げる新興勢力とそれを叩く先進国の間で戦争が起きています。今回は幸い経済戦争ですが同じモデルではないでしょうか。

 

トランプ政権、対中制裁関税を発動 340億ドル分

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32689440W8A700C1MM0000/ 

カナダ対米報復関税、7月1日に発動 1.4兆円相当

https://mainichi.jp/articles/20180630/k00/00e/020/228000c 

トランプに怒ったカナダ人、アメリカ製品をボイコット

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/07/post-10538.php 

米が対中制裁関税を発動 中国も直ちに報復へ

https://mainichi.jp/articles/20180706/k00/00e/020/186000c 

対米、報復関税の波 「貿易戦争」過熱 米中、全面対決へ

https://mainichi.jp/articles/20180701/ddm/003/020/055000c 

トランプ関税の「意外な標的」、米消費者に影響不可避

https://jp.reuters.com/article/trump-tariff-consumer-idJPKBN1JM0E7 

米制裁関税発動、ハイテク製品狙い撃ち 中国の産業育成策を警戒

https://www.sankeibiz.jp/macro/news/180707/mcb1807070500004-n1.htm 

中国、「中国製造2025」を推進へ、欧米が懸念強まる

https://jp.reuters.com/article/idJP00093300_20180308_00220180308 

 

◆ブレグジットと移民で揺ぐEU◆

ヨーロッパそしてEUが揺れています。英国のEU離脱の交渉も大詰めを迎えていますが、メイ首相は強硬離脱派の抵抗で大変です。閣僚が2名辞任するという事態です。EUと協調的な提案をEUに出しました。この先の交渉も難航するでしょう。すでに先端人材が英国を離れつつあるという話もきました。他のEU加盟国もEU創立の精神から離脱しつつあります。 EUはここに来て大きく揺らいでいます。

 

これまでEUを引っ張ってきたメルケル首相の政治基盤が一気に弱体化しています。移民問題では政権崩壊の一歩手前まで行きましたが、なんとか国内の妥協点を見つけました。 

 

EU首脳会談では合意を纏められず、今後も混乱が予想されます。ともかく、移民難民を容認する姿勢のドイツが移民難民を制限することになりました。ドイツが流入を制限すれば、周辺諸国とりわけイタリア、オーストリアなどに影響が出ます。したがってEU全体でこの問題を議論しなければなりませんが、どこの国も受入は困難でしょう。

 

 

イタリアが強硬なのはわかります。地理的に北アフリカに一番近い国ですから、これまで移民難民の流入口になっていましたので、 「もう勘弁してくれ」という国民感情は理解できます。ですから、イタリアは難民の上陸拒否をしています。

 

極めて難しい事ですが、難民にならなくても母国で生活できるような状態にEU全体で経済成長を支援することで、難民そのものを減らす事しかありません。

 

トランプ大統領の移民政策も政情不安で、経済破綻状態の中米から陸路メキシコ経由で大量に流入する難民移民をストップする、という話はアメリカの一般市民にとってわかりやすい話だと思います。これもアメリカファーストではなく、難民の母国の経済発展を支援することで、難民の発生を抑えるしかありません。

 

幸いと言うと語弊がありますが、日本には難民の大量流入ルートがありませんが、ヨーロッパとアメリカは、いわばパイプラインがついています。いつまでも対岸の火事と言うわけにはいかないでしょう。

 

EUの弱体はロシアと中国の勢力拡大につながり、すでにバルカン半島には中国の資金が流入しているようです。特に弱小国は借款でインフラを整備しても、その返済が行き詰まり、そのインフラそのものの運営権益を中国に献上するというモデルになります。すでにスリランカでは起きています。ギリシャの港湾も中国が運営権を握りました。アフリカの小国でも起きるでしょう。アジアではカンボジアとラオス、ミャンマーがこの状態です。マレーシアのマハティール首相は、この中国の野望に対し対抗の姿勢を見せています。

 

日本も安全保障と言うと立場でインフラ整備のプロジェクトに関与していますが、これを推進する必要があります。

 

EU首脳会議、移民問題で合意議論は10時間近くに

http://www.bbc.com/japanese/44653024

EU難民問題で緊急首脳会議-ドイツ首相の打開案支持されずと関係者

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-06-29/PB3PYL6JTSF401

EU首脳会議が難民問題で合意-イタリア首相が主導

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-06-29/PB3PYL6JTSF401

メルケル独首相、他国登録の移民送還に同意連立崩壊を回避

https://www.bbc.com/japanese/44694015

ドイツの移民政策転換、国内外から批判EU諸国に連鎖の可能性

http://www.afpbb.com/articles/-/3181103?act=all

 

◆これからが正念場の北朝鮮◆

米中首脳会談後、ポンペオ米国務長官が精力的な外交を展開しています。シンガポールでの非核化という合意を確固たるものにして欲しいという気持ちはありますが、まだ何も進捗がないのに、北朝鮮に対する圧力がどんどん緩んでいるのが気になります。

 

平和的な関係を築こうという話の途中で、大規模な軍事演習を中止するのはやむを得ませんが、韓国はほとんど前のめりで、統一国家になるという非現実的な夢の世界に入っているような気がします。

 

アメリカもかなり一方的に譲歩しているような気がします。

“ポンペオ氏は、米朝首脳会談の前日まで唱えていた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)を口にしなくなり、6日のツイッターでも、今後の交渉で「最終的で完全に検証された北朝鮮の非核化」を目指すとした。この文言は米国で「米政府の対北朝鮮姿勢が軟化した」との観測が広がる一因となっている。”という報道も気になります。

 

トランプ大統領は迫りくる中間選挙に政治生命がかかっていますから、国民に向けてシンガポール会談の成果を誇示したいと思います。その焦りがズルズルと一方的な譲歩になって、結果として過去の非核化の失敗と同じ轍を踏むことにならないかと心配です。なにしろ先方から言われる前に在韓米軍の撤退まで口にしているトランプ大統領です。

 

北朝鮮がミサイル製造設備を拡充していると言う、衛星写真の分析もあります。当然核弾頭やミサイルを地下の施設に隠匿しているでしょう。中間選挙前のトランプ大統領は、感情の高ぶりから何をするか分からないのが怖いです。

 

万一、在韓米軍の縮小撤退があれば、東アジアの軍事均衡が崩れますから、日本はその覚悟が必要になります。戦争反対と安全保障は似て非なるものです。北欧諸国は徴兵制を復活しています。国民も安全保障に対して、もっと理解を深める必要があります。

 

ポンペオ米国務長官が訪朝 完全非核化の具体的措置で協議へ

https://www.sankei.com/world/news/180706/wor1807060012-n1.html 

北朝鮮、ミサイル製造施設を拡張 南北や米朝首脳会談の時期に 非核意思に改めて疑義

https://www.sankei.com/world/news/180703/wor1807030023-n1.html 

独自演習まで自粛する韓国軍の北朝鮮への行きすぎた“忖度”の行き着く先は

https://www.sankei.com/west/news/180701/wst1807010001-n1.html 

在韓米軍撤退におびえる日本、「最前線国家」の現実味

https://jp.reuters.com/article/japan-skorea-us-troops-idJPKCN1J10KY 

 

◆第57回俯瞰サロン開催案内◆

深センのイノベーションとエコシステム、コピーする深センからコピーされる深センへ

 

「深セン」はハードウェアのシリコンバレーと呼ばれ、世界のイノベーションの中心となりつつあります。高須正和さんは深センを拠点に、海外と日本のメイカームーブメントをつなげる活動をされています。深センのことなら高須さんに聞け、と言われる深セン情報の第一人者です。深センの進化と世界のイノベーションとメイカームーブメントの進化について語っていただきます。

 

日 時: 2018年7月30日(月)18時30分より(18時受付開始)

会 場: 品川インターシティ会議室

     東京都港区港南2-15-4

参加費: 講演会のみ 1,000円 懇親会 3,000円

     当日、受付にて申し受けます。

定 員: 50名程度

    (定員になり次第、申込みを締切ることがあります)

懇親会:講演終了後に懇親会を開催します。

 

★お申し込みは、下記の専用サイトからお願いいたします★

   https://ssl.form-mailer.jp/fms/bb256f56558032

 

 ★高須正和(たかす まさかず)さんの自己紹介★

日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、日本のMakerカルチャーを海外に伝える「ニコニコ技術部輸出プロジェクト」「ニコニコ技術部深セン交流会」の発起人。「MakerFaire深セン」「MakerFaireシンガポール」などの運営にも携わる。Maker向けツール開発販売のスイッチサイエンス社(深セン)のGlobal Business Developmentとして、深センをベースに世界各地で開催されるモノ作りイベントである MakerFaireに参加。MakerFaireのアジア版には、世界でいちばん多く参加している。 

著書・連載:「メイカーズのエコシステム」「世界ハッカースペースガイド」など:

https://medium.com/@tks/takasu-profile-c50feee078ac

 

◆俯瞰のクッキング “キャベツ解体処理” ◆

キャベツを丸ごと買うと、一度で使い切れないので冷蔵庫の中に滞留する日数が長くなり、鮮度も落ちます。長く持たせる方法もよく紹介されています。

 

最近キャベツを1個丸ごと、いちどに使い切る方法考えました。

まず1番外側は、ともかく青い部分は1枚ずつ剥がして、手で茎のない葉の部分を適当な大きさにちぎります。外側の葉5枚から7枚でしょうか。この部分は「回鍋肉」にします。茎は細く刻んでこの後紹介するスープに入れます。

 

「回鍋肉」のレシピは色々紹介されていますが、まずたっぷりの湯でキャベツを1-2枚ずつしゃぶしゃぶのように軽く火を通して水切りをしておきます。 そしてその鍋の湯で豚肉を茹でて、軽く片栗粉まぶします。

 

そしてその鍋で炒めます。油を大さじ1杯入れ、赤唐辛子をちぎって入れ、香りが立ったら薄切りのネギを10センチ分入れ、片栗粉がついた豚肉を炒め、片栗粉に油が馴染んだら、味噌大さじ1 、甜麺醤大さじ2分の1 、酒大さじ1を混ぜた合わせ調味料を鍋肌から入れます。肉に調味料を絡めて炒め、最後にキャベツをさっと炒め合わせます。野菜はキャベツだけです。生姜焼き用の肉で作ると美味しいとのことです。以上、ウー・ウェンさんのレシピです。鍋に肉を戻すから「回鍋肉」と言うのです。

 

次に青みが薄れた中心部は、上下に切り分け、やわらかに上部のほうは刻んでコールスローにします。下の部分は硬い茎を除いて細かく刻みます。

 

刻んだキャベツでスープを作ります。鍋にサラダオイルを入れて、刻んだニンニク、刻んだタマネギ、細かく切ったベーコンを入れて炒めます。バターを使うと違ったスープになります。刻んだキャベツも入れて、さっと炒めます。水を入れて40分ほど煮ます。これをミキサーにかけてストレーナーで漉します。これに顆粒の鶏ガラスープをいれ、塩胡椒で味付けします。これで回鍋肉という主菜とスープそしてコールスローという副菜が完成しました。

 

スープもコールスローも、残っても翌日美味しく食べられます。 2人でキャベツ1個ですが、うちは野菜を大量に食べる食生活が定着していますから、これでいけます。

 

◆俯瞰の書棚 “予想どおりに不合理”

今回は「予想どおりに不合理 行動経済学が明かす『あなたがそれを選ぶわけ』」ダン アリエリー 早川書房 2013です。

 

この本は文句なくお勧めです。人間の本質が理解できます。そして自分自身の理解も深まります。一言で言えば人間は合理的な判断はしないということでしょうか。

 

15章からなりますが、すべて仮説を実験で検証しています。この実験がとても面白いのです。行動経済学は心理学と脳科学の掛け算です。

まず目次を紹介しましょう。

 

はじめに

1章 相対性の真相 なぜあらゆるものはそうであってはならないものまで相対的なのか

2章 需要と供給の誤謬 なぜ真珠の値段は、そしてあらゆるものの値段は定まっていないのか

3章 ゼロコストのコスト なぜ何も払わないのに払いすぎになるのか

4章 社会規範のコスト なぜ楽しみでやっていたことが、報酬をもらったとたん楽しくなくなるのか

5章 無料のクッキーの力 無料!はいかにわたしたちの利己心に歯止めをかけるか

6章 性的興奮の影響 なぜ情熱はわたしたちが思っている以上に熱いのか

7章 先延ばしの問題と自制心 なぜ自分のしたいことを自分にさせることができないのか

8章 高価な所有意識 なぜ自分の持っているものを過大評価するのか

9章 扉をあけておく なぜ選択の自由のせいで本来の目的からそれてしまうのか

10章 予測の効果 なぜ心は予測したとおりのものを手に入れるのか

11章 価格の力 なぜ1セントのアスピリンにできないことが50セントのアスピリンならできるのか

12章 不信の輪 なぜわたしたちはマーケティング担当者の話を信じないのか

13章 わたしたちの品性についてその1 なぜわたしたちは不正直なのか、そして、それについて何ができるか

14章 わたしたちの品性についてその2 なぜ現金を扱うときのほうが正直になるのか

15章 ビールと無料のランチ 行動経済学とは何か、そして、無料のランチはどこにあるのか

 

まず“はじめ”に、この著者は18歳の時、全身火傷の事故で3年の間、全身を包帯に覆われたまま病院ですごした、という壮絶な人生をおくります。その後テルアビブ大学で学びはじめて、その最初の学期にとった授業がハナン・フレンク教授による大脳生理学の授業で、その後の人生をほとんど決めてしまった、とのことです。

 

わたしたちが、どんなふうに不合理かを追求しようというのがこの本の目的で、「行動経済学」の解り易い解説書です。発売当時からベストセラーです。

 

この本の読み方として「一章読みおえるごとに立ちどまって自問することを提案したい」とありますが、重要な助言です。その時点で自問自答すると自分自身がより理解できます。

 

第一章で私がハイライトした部分のいくつかを紹介しましょう。

“人間は、ものごとを絶対的な基準で決めることはまずない。”

“大半の人は、自分の求めているものが何かわからずにいて、状況と絡めて見たときにはじめてそれがなんなのかを知る。”

“わたしたちはものごとをなんでも比べたがるが、それだけでなく、比べやすいものだけを一所懸命に比べて、比べにくいものは無視する傾向がある。”

“金持ちが大金持ちに嫉妬する時代、人は持てば持つほどいっそう欲しくなる。”

“人に何かを欲しがらせるには、それが簡単には手にはいらないようにすればいい。”

 

この章では相対性の実験として「エコノミスト誌」のweb広告を取り上げていますがこれは面白いです

「エコノミスト誌」購読の選択肢は次の3つです。

1)ウェブ版だけの購読(59ドル)

2)印刷版だけの購読(125ドル)

3)印刷版とウェブ版のセット購読(125ドル)

そしてMITのMBAの学生100人の結果は、 1が16人、2が0人、3が84人でした。実は2は「おとり」です。この「おとり」を除いてテストした結果は1を選択した学生は68人、 3を選択した学生は32人でした。

 

家電店のテレビの展示の例では、

●パナソニックの36インチ(690ドル)

●東芝の42インチ(850ドル)

●フィリップスの50インチ(1480ドル)

前後が「おとり」です。

 

第二章では、

“たとえ最初の価格が「恣意」的でも、それがいったんわたしたちの意識に定着すると、現在の価格ばかりか、未来の価格まで決定づけられる”というアンカリングの概念と、“他人が前にとった行動をもとにものごとの善し悪しを判断して、それにならって行動する”ハーディングの概念が重要です。だから行列があるラーメン屋に並んでしまうわけです。マーケティングは人間の持つ不合理をついてくるのです。気を付けましょう。

 

この調子で紹介するのは限度がありますから、その他の章で印象に残った仮説を列挙しておきましょう。

“自分の決断がほんとうは直感、つまり胸の奥底で望んでいるものから来ている場合、わたしたちはときに、その決断が合理的に見えるように仕立てたくなるということだ。”

“実は、値段ゼロは単なる価格ではない。ゼロは感情のホットボタン、つまり引き金であり、不合理な興奮の源なのだ。” すなわちただより高いものはない、です。

“わたしたちはふたつの異なる世界──社会規範が優勢な世界と、市場規範が規則をつくる世界──に同時に生きている、考えのなかにいったん市場規範がはいりこむと、社会規範が消えてしまう。”

“社会規範(いっしょに何かをつくりあげる興奮など)のほうが市場規範(昇進ごとにだんだん増えていく給料など)より強い企業(とくに新興企業)が、人々からどれほど多くの働きを引きだしているかはまさに驚きだ。” 例えばGoogleです。働く場を協創の場にしましょう。

“人間性のなかにある三つの不合理な奇癖、自分がすでに持っているものにほれこんでしまうこと、手にはいるかもしれないものではなく、失うかもしれないものに注目してしまうこと、ほかの人が取引を見る視点も自分と同じだと思いこんでしまうこと。”

“すべての人に閉じなければならない扉─小さいものも大きいものも─がある。”すなわち 捨てる勇気が必要ということです。

“先行する刺激(プライマー)の処理が後の刺激(ターゲット)の処理を促進または抑制する効果のプライミング効果”すなわち刷り込み現象です。

“予測によってわたしたちの経験に対する感じ方やとらえ方が変化する、肯定的な予測は、ものごとをもっと楽しませてくれるし、まわりの世界の印象をよくしてくれる。”すべて前向きに行きましょう。

“最初の決断はきわめて重要であり、十分な注意を払うべきだ。” 日本人はこれはやり過ぎで結局やらないそして時代に取り残されるのです。撤退も決断できませんが。

“自分の望みが何かわかっている つもり でいるにすぎない “ 問題はその望みもわからない人が多いのです。

“不合理な行動は改善できる。” この本を読めば出来るかもしれません。

 

第六章では“いい人であろうと、情熱が自分の行動におよぼす影響を甘く見ている。わたしたちの実験の協力者は、すべてにおいて判断を誤った。もっとも聡明で合理的な人でも、情熱のただ中では、自分が思っている自分とは完全にすっぱりと切りはなされてしまうようだ。しかも、ただ自分について誤った予想をするというだけでなく、その誤りの程度が甚だしい。” だから想像できないような性的スキャンダルが起きるのでしょう。

 

国際秩序とその中でアメリカが永年に渡って築いてきた米国の信用を破壊しているトランプ大統領に紹介したいフレーズは、

“信用の喪失はすべての関係者にとって長期的なマイナスの結果をもたらすだろうし、公共の信用を修復するには長い時間がかかるだろう。目先のことにとらわれ、個人が欲に走ったせいで、共有地(この場合、金融制度、政府、経済全体)は大惨事に見舞われてしまった。”です。不祥事を起こしている日本の製造業の経営者もこれを肝に銘じてほしい。

 “人々はチャンスがあればごまかしをするが、けっしてめいっぱいごまかすわけではない。個人は、自分に都合がいい(他者を喜ばせたいという願望も含めて)ときだけ正直になる。”

 

そして本書の結論は、

“実験結果が示すように、わたしたちがくだす決断は、従来の経済理論が仮定するほど合理的ではないどころか、はるかに不合理だ。といっても、わたしたちの不合理な行動はでたらめでも無分別でもない。規則性があって予想することもできる。脳の基本的な仕組みのせいで、だれもが同じような失敗を何度も繰り返してしまう。だとすれば、ふつうの経済学を修正し、未検証の心理学という状態(理由づけや、内省や、何より重要な実験による精査という検証をしていないことが多い)から抜けだすのが賢明ではないだろうか。”

 

一読をお勧めします。

 

◆知識の俯瞰◆ 知的腕力を鍛える 1

知的腕力を鍛えるといいうことは「脳を鍛える」ことです。具体的には、情報の収集、分析、編集(企画や提案の資料作成など)を短時間に高い水準で行う能力です。

情報と知識の定義は難しい、この連載では、事象に関する生の記述を「情報」と呼び、その情報に意味づけや関係性を持たせた記述を「知識」と呼ぶことにします。「記述」とは言語的または図形的な表象とします。画像や動画から人は知識を獲得できますが、その画像や動画そのものは「情報」としておきます。

 

情報爆発

知識には様々な様体がありますが、生まれて此の方の体験や見聞から脳に蓄えられたものです。経験の知識は動物も所有しているのでしょうが、言語と言う人間にしかないものを通して他の人間の知識を吸収する事は人間の特権です。空間や時間を超えて私たち人間は知識を獲得することが出来ます。そしてその知識の応用を通してさらに新しい知識を生み出し、そしてそれが人類の中に拡散していきます。多様なメディアの発明と、移動と通信の技術がさらにそれを加速化し、現在想像もつかないような巨大な存在になっています。さらにインターネットという情報通信革命は情報の発信人を何億人にも広げ、情報爆発を起こしています。人類が30万年で蓄積した情報量よりも多くの情報が1-2年で蓄積されるという文字どおりの情報の爆発です。

 

しかし情報が爆発しても知識が爆発する訳ではありません。情報は人間の脳の「認識」というプロセスを経て知識に変換されるのです。ただこの情報を知識に変換する処理が爆発に追随できていません。人工知能はこのプロセスの自動化技術です。今話題のビックデータの活用は、爆発する情報をなんとか知識に変換し有意な行動に繋ることです。

 

しかし人間では情報の爆発に対応することはある意味不可能です。幸い水準の高い研究機関や個人が特定の視点と視座から情報を収集し、分析して編集するという“知の構造化”により知識として提供していますが、そういったウェブサイトすらも爆発状態で、 Googleの検索エンジン程度ではとても対応できない状態です。この議論は参考文献の喜連川優教授の論文で。

 

知識の獲得

情報が爆発しても意外と知識の獲得量は増えていません。個人では日常生活や旅行、新聞雑誌、テレビなどの従来メディアの情報ですら十分に知識として吸収されていません。新聞は日々の事象を幅広くしかし断片的に情報として配信していますが、記事を読んでも必ずしも知識として吸収されるわけではありません。よく企画された連載の記事は担当の記者と編集ディスクが情報を構造化していますので精読すれば知識として吸収するものは多いでしょう。雑誌の特集も特定のテーマについて膨大な情報の収集の結果ですので知識の獲得源です。

 

膨大な書籍が出版されていますが、これも極々一部しか知識として獲得されていません。物理的に本を読むという行為は時間を取りますから、当然知識として吸収する分量は限られます。きっと書き上げられた書籍は著者が長い時間をかけて、情報を収集し、分析し、構造化という編集をした結果ですから、読書からは非常に質の高い知識が獲得できます。

 

ただ若い人を含め、日本人は読書量が減っているのではないでしょうか。質の高い知識を獲得するために「書を読む」という時間を意識して確保する努力が必要です。 QOLを向上させるために読書と言う行為を積極的に行う必要があります。これによって脳を鍛え、興味深い知識を獲得する喜びを感じ、これを身近な人と話題にすることによりさらにこれまで蓄積した知識と融合して気づく知識があり、脳の健康状態が昂進します。

 

読書は興味本位ですれば良いと思いますが、人生の時間が限られていますから、できれば質の良い書籍を手に取りたいものです。ご関係の方には失礼になるかもしれませんがビジネス書ベストセラーや新聞の下部広告にある本ではなく、書評で取り上げられた書籍から興味を惹かれたものを読まれてはいかがでしょう。書評として取り上げる段階までのプロセスを考えると、時間を割いて読む価値のある本に出会い、貴重な知識が得られます。本の読み方の訓練や作法が身に付いていると同じ書籍からいうより質の高い知識を獲得できますがこの話は一旦止めておきます。

 

知的腕力を鍛える東大の俯瞰ゼミ

情報の収集、その分析、そして得られた知識の編集ということが脳を鍛える行動です。たくさん本を読んでいてもそれだけで終わると、知識を、物事の判断や行動に応用出来ません。人にそれを話し、文章に書くと応用力のある知識になります。知力が上がります。

 

東京大学で俯瞰塾と言うゼミを定年後の今もやっていますが、学生にはこの塾の目的は皆さんの知的腕力を鍛えることです、と言っています。すなわち情報の収集能力と分析能力そして編集能力を鍛える事です。具体的には毎回課題を出し、その課題に関連する情報を最大限に収集し、それを出来るだけ高度な手法を用いて分析し、課題に応える形に編集する、すなわちプレゼンテーションに纏めるということを毎週繰り返しています。課題は会計やマーケティング、リーダーシップ、戦略、技術開発などですから結果としてビジネスに関する知識が獲得できます。あくまで知的腕力の鍛錬が目的であってビジネスに関する知識の習得は二次的なものであることを言明しています。率直に言ってこの訓練の効果は本人も驚くほどです。見学も可能です。

 

参考文献

http://www.ieice.org/jpn/books/kaishikiji/2011/201108.pdf 

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◆編集後記◆

海の側、川の側、崖の下、崖の上に住んではいけないと子供の頃教えられましたが、被災地の映像見ていると、崖の下まで造成した住宅地が大きな被害を受けています。

 

貿易戦争に勝利者はいない、だからやるな、という助言を無視して貿易戦争始めたトランプ大統領は勝利すると言っていますが、日本を含めた世界中が迷惑します。

 

イギリスはEU離脱で大混乱です。 EUとの人の移動が難しくなるということで、人材がイギリスを離れているようです。金融機関もパリに拠点を作る企業が出てきました

 

これまでEUを束ねてきたメルケル首相の弱体化で、 EUも揺れてきました。移民難民の受け入れはどこの国民も「これ以上勘弁してくれ」というのは本音でしょう。これをポピュリズムと片付けるわけにはいきません。

 

北朝鮮とアメリカの交渉はかなり難しくなっているようです。これ以上北朝鮮に譲歩すれば中間選挙に向けた手柄話が逆効果になりかねません。といって北朝鮮が譲歩するとも思えません。これからまさに正念場で暑い夏になるでしょう。

 

“予想どおりに不合理”はなんとなくわかっていた人間の本質を改めて実験によって再確認させてくれました。これが分かっている人は人生がうまくいくでしょう。

 

 

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◆俯瞰MAIL80号(2018年7月10日)

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編集長:松島克守

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