■ 松島教授最終講義

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(最終講義プレゼンテーション解説)

産業界から大学に戻る

 東京大学で生産技術の研究と学生指導をした時期を経て、その後20年以上大学を離れビジネスの世界で活動してきた。 1999年8月に大学に帰任した。それまで外野で、工学部においてビジネスの教育が必要であるという主張をしていたが、それを実行するために大学に戻った。様々な経験から現在の大学教育の限界と問題を理解して、ビジネス教育を始めた。自分自身が学生の時に受けた教育について改めて振り返り、自分が始める教育プログラムをデザインした。


工学部で機械技術者となる教育を受け、最初の社会的経験はジェットエンジンの製造工場だった。工場の技術者は単なる技術の仕事ではなく、組合員である現場の人々との協調と協創が仕事であった。これが最初の経営学的経験となった。


 学生の時受けた教育は、明治以来培われた伝統的な教育であったと思う。私が機械技術者であるとすればそれはこの時期に受けた教育にある。大部分の講義は黒板の板書やプリントを配布して知識を移転する伝統的な形式であった。今振り返って機械技術者としての基礎を形成してくれた科目は何であったかと考えると、それは自分の多くの時間を掛けた、実験や演習であった。


 当時は卒業研究とは別に卒業設計という科目があった。これは2人のチームであったが我々には電動義手を設計せよという課題を与えられ、苦労して夏休みの時間を使って仕上げた記憶がある。多少の誤りがあったろうが伊東屋が完成させた電動義手を見た時は感無量であった。


 当時の精密機械工学の卒業研究は自分で実験装置を設計して、それを製作して実験データを取るといった課題が少なくなかった。私も工作機械の振動制御の実験装置を設計し、製作し、それでデータを取るという卒業研究した。したがって学術研究として特に高度なものではなかったが、その過程で多くの苦労から学ぶものが多かった。結局このような作業に基づいた学習で機械技術者に作り上げられたと思う。だから今でも作業を伴う学習が重要であると信じている。

経営学の教育

 これまで長々と経験を述べてきたが、俯瞰経営学はこれまで述べてきた私が社会で得た経験と、其の上での大学教育の体験的評価を踏まえて、一つの体系的な教育プログラムとしてデザインしたものである。基本は知識を蓄えるのではなく論理的思考能力を高めることを目的としている。さらに学生が持つ潜在能力を顕在的能力にすること。企業とは何か、ビジネスとは何か、企業組織はどのように動くのか、その中で社員としてマネジメントとしてどのように考え行動すべきか、このような認識を深め、それを踏まえて人生で最も大切な、社会でのキャリアデザイン、就職活動に臨む準備をする事が目的である。


 具体的には ビジネスリテラシーを身につけるために、ビジネスの実務においてもっとも重要な能力である情報の収集・分析・編集のスキルを磨くこと。その基礎となる日本語の読み、書く、話す、聞く、の能力向上の訓練に留意した。情報収集能力としては従来の紙の資料の読解能力に加え、Webでの情報収集能力、そして収集した市場情報、経理情報、財務情報、技術情報等の分析能力、それを論理構造のある情報として編集して明快で説得力ある資料を作成する能力を磨く訓練を重視した。またコミュニケーション能力として現在極めて重要なプレゼンテーションのスキル、チームとしてタスクを遂行する力、そしてその中で適切なリーダーシップを取っていく能力が ビジネスリテラシーである。加えて社会に出てからも学習を続け成長を続けていく基礎的な能力を身につけることである。 

    
 例えば、もし日経新聞の経済記事を高い水準で理解する能力を身につければ社会に出てから、日々経済知識を身につけることができる。決算期に多くの決算報告がされる。しかし財務諸表を読み解く力がなければその情報を理解する事は出来ない。経済書や水準の高いビジネス書を読み、そのエッセンスを吸収するためにも ビジネスリテラシーは重要である。 


 すなわち俯瞰経営学の目的はビジネスに必要な情報の収集能力、分析能力、編集能力という ビジネスリテラシーの基本を身につけ、さらに自分が気付いていない、自分の能力を知ることによって学生から社会人と変身する場を与えることである。教師から学ぶ場ではなく、自らが学ぶ場を与える事である。そして自分の学生時代にこんな教育プログラムがあったよかったというプログラムにデザインした。10年間の教育を「俯瞰経営学」としてまとめ上梓した。

俯瞰工学の研究

 研究室として俯瞰工学研究室を主宰し、俯瞰学の工学的手法の開発を推進してきた。その俯瞰学の手法の開発の視座は、地政学的俯瞰、領野的俯瞰、文献的俯瞰、時間的俯瞰、産業構造的俯瞰 であった。 俯瞰工学研究室では、学術知識の領野敵的俯瞰と文献的俯瞰を統合して各領野の学術知識のネットワーク分析の手法を開発してきた。地政学的俯瞰と産業構造的俯瞰の統合として地域経済活性化の分析として地域クラスターのネットワーク構造の分析を多くの地域を対象として進めてきた。時間的俯瞰と産業構造的俯瞰の統合的応用として技術ロードマップ自動生成も試行した。俯瞰的認識の重要な目的は、イノベーションの昂進である。そのイノベーションは技術イノベーションとビジネスイノベーション、そして社会イノベーションである。従って、イノベーションのモデルの追求が俯瞰工学の対象になる。企業経営、政策立案は、技術イノベーションとビジネスイノベーション、そして社会イノベーションの俯瞰的な構造化である。


 俯瞰工学の研究の後半は、物理学の研究者によって2000年以降急展開された、ネットワーク理論の応用が中心となった。ネットワーク理論の応用は多くの人が進めているが、我々の研究グループでは、知の構造化への応用として、学術論文の引用ネットワーク分析による当該領野の俯瞰的理解を行った。近年情報の爆発は専門家でも当該分野の俯瞰的理解を困難にし、専門家も結果としてごく狭い領野の理解しかできない。しかし、環境やエネルギー、安全、医療、食糧等の複数の専門分野の知識を活用して社会的課題に対する解決策を求める時、関連する可能性のある知識の俯瞰的理解は必須である。


 もう一つのネットワーク分析の応用は地域クラスターのモデル化と可視化である。地域経済の活性化は社会的な緊要課題であるが、単なる論評や分析を超え、具体的なクラスター形成の行動を提案するためには、モデル化と可視化が有効であると考える。地域内の経済活動をネットワーク分析することにより、クラスター形成の要件を成功したクラスターから抽出することが出来た。


 このような研究課題は定年で大学の俯瞰工学研究室を閉じた後も、俯瞰工学研究所の研究活動として継続している。http://www.fukan.jp/

 本資料は以上の実践の要約である。

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